そっちかい!

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そっちかい!

 九月に入った。  暦の月が変わり、至上最強と言われた台風が過ぎ去り、京都の暑さはようやく和らいだように感じる。  和らいだといっても、まあ、一昔前の夏真っ盛りと同じくらいだろうか。  さて、立花ヒイコ、夏の間は仕事から帰ると、いの一番にお風呂に入る。  今日も一日の汗をシャワーで流していたのだが、なにやら足にかゆみを感じる。  見ると、ぷくっと丸く膨れている。  普通、この状態を見たら「蚊に刺された」と思うのが世の人だ。  しかし、ヒイコはそうは思わない。  ――ああ、じんましん出たわ。月曜日だからかなあ。  そう。ヒイコは何かと肌が弱い。  子どもの頃、寒空の下プールに入れば体中にじんましんが出た。  流行病で寝込んでいたときも、薬の副作用なのか、お尻に巨大なじんましんが出たことも記憶に新しい。  これについては、思わず鏡で確認したくなるほど大きくて、それはまるで、陸地がぼこっと浮き出ている地球儀のようだった。  それにしてもかゆい。  シャンプーしていると、かゆい箇所が増えていく。  右足に三カ所、左足に二カ所……ぼこっと膨らんでいる。  ――まさか、蚊じゃないよね……  と一瞬頭をかすめるも、服を脱いでお風呂に入るまでの一瞬に、五カ所も刺せるはずがない。  膨らんだところを見ると、蚊の刺し口のような点がある。  しかし、この点は毛穴にも見える。    ――うん。やっぱり、じんましんだわ。ああ、かゆう……  風呂上がりに、ウナコーワを塗って、濡れた髪のまま、撮りためているドラマを観たら、痒みのことは頭から消えてた。  長らく放置されてほとんど自然乾燥された髪だが、ドライヤーをかけに洗面所に向かった。  そこで、ヒイコは見つけた。  ――蚊ーーーーっ!!!  まるでハエと見間違えるほど、胴体が丸く膨らんだ蚊が白い壁に止まっていた。  ――くううううっ! じんましんじゃなかったんかい!!  夏の代名詞でもある蚊。  それなのに、あまりに暑すぎると活動しなくなるという。  正常な暑さになった今、まさに蚊の季節に突入したのである。
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