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シャインマスカット
暦の上では秋である。
証拠に、スーパーには秋の果物が並び、スタバでは焼き芋香ばしフラペチーノが推されている。
――この暑いのになんのこっちゃ。
立花ヒイコはといえば、まだ夏の食生活から抜け出せず、毎日ジャリジャリ系アイス三昧である。
そんなヒイコの部屋に、一階に住む大家さんが訪ねて来た。
「毎日暑いよねえ。立花さん、これ食べて」
たびたびお裾分けをくださる人の良い大家さんだが、夏の間はしんとして大人しかった。
いいお歳だし、ひとり暮らしだし、夏バテしてやいないかしらん? と心配したのもつかの間、ヒイコのほうが先にバテてしまったから仕方ない。
お元気そうでなによりである。
「山梨の親戚からたんと届いたから、少しだけどお裾分け」
どうやら大家さんには日本中に親戚がいるようだ。
ビニールをのぞくと、黄緑色のぶどうが……しかも大粒である。
「ま、まさかこれは……!」
――これは、かの有名な高級フルーツ……シャインマスカット!?
立花ヒイコ、シャインマスカットをまるごと食したことがない。
まるごととはどういうことかというと、コンビニの大福に一粒入っていたり、ちょっと奮発したケーキに申し分程度に入っていたり。
つまり、単体でじっくり味わったことがないということだ。
ヒイコ、心していただくこととした。
ヒイコにとってシャインマスカットはまさに高嶺の花、期待は膨らむばかりである。
まぶしいまでにつやつやに輝く粒を、いざ、実食。
――ん……。うん、美味しい。
もう一粒。
――うん、美味しい。
美味しいことに違いないのだ。
しかし、テレビやSNSで美女たちが超美味しいと悶絶するほどの強烈なパンチはない気がする。
――私の舌がおかしい?
ヒイコ大好物の巨峰に比べると、味はあっさりしているし、糖度も控えめ、それにジューシーというより肉々しい。
ヒイコ、瞑想に入った。
そうして、ふっと降ってきた。
――そうだ、スイーツと一緒に食べたらいいんだYO!
シャインマスカットがケーキや大福やパフェと合わさることが多いのは、そういう食べ方が美味しいってことじゃないのか、というのがヒイコのひらめきである。
さっそく、冷凍庫をあさり、バニラアイスを取り出してきた。
バニラアイスをスプーンですくって、落とさないようにシャインマスカットを一粒オン。
さて、二度目の実食!
――んまあああ。
味を占めたヒイコは、コンビニにロールケーキ(プレーン)を買いに走ったのであった。
自腹で購入したシャインマスカットだったら恐れ多くてできなかったであろう。
なんとも贅沢な食べ方を覚えたヒイコである。
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