立花ヒイコ、京都に転勤する

名脇役

　夕方六時前後のスーパーは悪魔的である。
　なぜなら、値引きシールが貼られるからだ。
　普段買わないものまで買ってしまうという危険極まりない時間帯だ。

　ヒイコも多分に漏れず、脂の乗ったぶりのお刺身（40％off）と、大感謝祭特別中華弁当（20％off）を買った。
　ついつい、である。決して普段なら買わないけっこう贅沢な食事だ。

　値引きされているけれど、通常の食事代より高いことに間違いない。

　でも、やっぱり「お得」は気分がよい。
　罪悪感より、お得感のほうが勝るのだからよしとしよう……とヒイコは、心の折り合いを付けるのであった。

　さて、いかにも美味しそうなぶりを一切れいただくと、下に敷いてあった「つま」（大根の千切り）がやたら分厚く盛られていることに気づいた。
　ぶりが薄いからかさ増ししているとかそういう訳ではない。
　ただ単に「つま」が山盛りなのである。

「これは……もったいない」

　ほとんど刺身のドリップも出ていない、真っ白な大根ちゃん。
　ヒイコ、お皿に盛って、ドレッシングをかけていただくことにした。

「ラッキー。一品増えた。しかも、野菜が取れてありがたい」

　まさか自身が立派な品数のひとつになろうとは、「つま」も思ってもいなかったことだろう。

　中華弁当も突っついていると、パセリふた房が飾りとして乗っていた。

「はて、パセリは……」

　結論、申し訳ないがパセリは端によけた。食べる予定はなしである。
　そうしておきながら、「もったいない」と思ってしまったヒイコ。なぜ、パセリが添えられているかググってみた。

　『彩りのため』それはそうでしょう。あとは『抗菌・消臭効果』あり。

「なるほど、君は大それた役割を担っているのだね」

　お弁当パックの端に追いやられたパセリに話しかけるヒイコ。
　では、「つま」はどうかと調べてみると。
　『刺身から水分を取り鮮度を保つ効果』あり。
　パセリと同じく、大根のつまにも抗菌作用があるらしい。

「すごいなあ。でも、確かに40％引きのぶりだけど、まるで切り立てだったわ。君は本来の任務を全うした上に、私の栄養にまでなって……」

　今度はゴマドレをかけられた大根に語りかける。
　もはや「尊敬」の域である。

　大根のつまもパセリも脇役ではあるけれど、大したものだとヒイコはおいしく大根サラダをいただいたのであった。