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京都人は腹黒い!?
立花ヒイコ、生まれも育ちも関東である。人生の大半を埼玉で過ごしてきた。
これまで、いわゆる関西人と関わったことがない。
ヒイコが抱く関西人のイメージと言えば、お笑い芸人=ノリがよくておもしろい人だ。
京都に引っ越す直前、ヒイコは歯の治療を完了させようと、長年通った歯科医院を訪れた。
ここの女医さんは気さくな人で、いつもヒイコと世間話をした。
「そうなの? 立花さん、京都に?」
転勤になったと伝えると、先生はヒイコの口をびよんと伸ばしながら驚いた。
「ふあい……らから、とおぶん来られないんれす(はい、だから、当分来られないんです)」
と説明すると、先生は「大変ねえ」としみじみ言った。
「向こうに知り合いは?」
「いばせん」
ヒイコが答えると「あらあ……」と先生はとたんに心配そうな顔をする。
「わたしの友人が数年前に京都に転勤になったんだけど、相当苦労したみたいよ……」
――!!! どういう意味ですか、それ……?
なんだか不穏な空気である。
「うーん、やっぱり地域性みたいなものが違うでしょう。言葉とかも含めていろいろ……」
――え……。
ヒイコにとって未知の世界である関西人、そして京都人。
同じ日本人なのに、ちょっと西に行くだけでそんなに違うものだろうか。
――確かに、関西弁ってキツく聞こえたりもするよな……。
ヒイコ、一気に血の気が引いた。
――っは! 「とろいんだよ!」ってどやされたりしたら、どうしよ……
立花ヒイコ、基本素早い動きは苦手である。自覚があるのか、何故かピンポイントに「とろい」と避難される姿を想像した。
ヒイコの異変に気づいた先生は必死にフォローする。
「でもね、その友人はもう関東に帰ってきたんだけど、今でも向こうでできたお友だちに会いに行くくらい打ち解けたみたい。まあ、慣れるのに少し時間がかかるかもってだけよ」
――は、はあ。って超不安なんですけど……
***
そんな脅しを浴びた立花ヒイコ、本日、京都支店赴任初日である。
職場の人々が発する言葉はほぼ……いや、みんな関西弁だ。
――大丈夫。人類みな平等!
と、訳の分からないガッツを携えてパソコンに向かう。
異動初日あるあるだが、ヒイコはパソコンの設定に四苦八苦していた。
「立花さん、調子はどうですか?」
タヌキ顔の課長がのんびりした口調で聞いてくる。
「すいません……もう少しで終わると思いますっ」
立花ヒイコ、パソコンはじめ機械類に疎い。故に、パソコンの設定なぞ、上手くできているかヒヤヒヤものである。
「ああ。ゆっくりで。まだ1日目ですからね。ゆっくり行きましょ」
言葉どおりゆっくりの口調で諭す課長に、少し拍子抜けする。
***
”異動したてあるある”に、電話に出るか出ないかドギマギする問題がある。
所属的には新人であるわけだから、率先して電話を取らないといけない、と思う反面、まだ仕事を把握できていないから取ったら逆に迷惑かけるかもと戸惑う現象だ。
赴任3日目の立花ヒイコ。まさにこの状態に陥っていた。
隣の席に座る京美人代表・草刈先輩が、ヒイコのそんな様子に気づいた。
草刈先輩は上品な笑みを浮かべ、おっとりとした口調でヒイコに言った。
「立花さん。徐々にでええのです。ゆっくりゆっくり行きましょ」
――草刈先輩……天使だ……ってか、ここの人たち、優しい。歯医者の先生、脅かしすぎだよ……
「そういえば、京都はどうですか? 慣れました?」
「は、はい。実は京都の人にちょっと構えてた部分があったんですけど、みなさん優しくて……」
ヒイコのちょっと的外れな回答に、草刈先輩は少し怪訝な顔になった。
――えっ、まさか地雷踏んだ!?
ヒイコ、血の気が引く。
「ああ……確かに京都人は腹黒い言いますもんね……」
「あっ、いやあ、違うんです、その……」
「自分では気づかんうちに、わたしも腹黒くなってるんやろか……?」
草刈先輩はヒイコににっこり笑みを向けた。
――えっ? どっちなの? やっぱりそういうこと!?
立花ヒイコ、草刈先輩のはんなり笑顔に無駄にビビるのであった。
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