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トイレそうじ
立花ヒイコ、早いもので京都に来て一か月が経った。ひとり暮らしも板についてきた。
昨晩、久しぶりに母と電話した。
32年間毎日顔を合わせてきた母娘だが、さっぱりしたもので、一か月間、お互い何の連絡も寄こさなかった。
久しぶりの会話はこんな感じだ。
「あんた、ゴミに埋もれてないでしょうね?」
「ねえ、一か月ぶりに娘にかける言葉がそれ? ふつうさ、『ご飯ちゃんと食べてる?』とか、そういうのじゃない?」
「あんたがご飯食べ忘れるわけないじゃないのよ」
――うっ……。
図星である。母は痛いところをついてくる。
「トイレ掃除、やってないでしょ?」
「トイレ掃除? ん? まあ……」
トイレ掃除など、引っ越してきて一度も頭に浮かばなかった。
電話口の母はため息をついている。
「案外、汚れるものなのよ」
「だ、大丈夫。だってほら、そっちはお父さんいるから。男の人いると汚れるって言うじゃん」
「そりゃそうだけど。女性だけでも案外汚れるのよ」
「またまたあ」
そんなこんなで、翌朝。
用を足したヒイコは、「お母さん、大げさだからな」とつぶやきながら、何気なく便座に手を伸ばす。
そうすると、なんとなく自信がなくなり、恐る恐る便座を持ち上げてみると――
「……っ!」
なんと、確かに汚れていた。大した汚れでないにしろ、ヒイコは軽いショックを受けた。
――そうか。そういうものなのか。
何か納得したヒイコは、うんうんと頷く。
立花ヒイコ、32歳。生まれてこのかたトイレ掃除とは無縁で過ごしてきた。母のありがたみを感じるとともに、一歩、大人になったなあと感慨深く思うのであった。
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