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件の服は、ちょうどtkbの部分がジッパーで開くという破廉恥なデザインです。
お題元:140文字で書くお題ったー
−−−−−−−−−−
はっきり言って、うるさい。
はっきり言って、うっとうしい。
「絶対だめだからな! 俺は許さないぞ!」
「はいはい」
俺はもう、まともに取り合うのも阿呆らしくなってきて、投げやりな返事をした。
ドアの外では悠さんが飽きずに座り込みを続けている。かれこれ三十分になるだろうか。もう着替えも終わったし、いい加減外に出たいのだけれど。
「そろそろ時間ですから、外に出してください。お相手もお待たせしてるんですよ」
「着替えは? したのか?」
「もちろん」
「じゃあだめだ。俺はここをどかない」
悠さんは徹底抗戦の構えを取るつもりのようだ。はあ。
俺たちが何をやっているのかと言うと、こうだ。
今日の悠さんの仕事は、数日後に迫ったコンサートの音合わせだ。
一方で俺は別件の打ち合わせを、ホールの近くでやることになっている。
その打ち合わせの”準備”が、悠さんの気に入らないようなのだ。
「ただの打ち合わせです。別に大したことはないんですから。そんなに心配しなくて大丈夫ですって」
ドアの向こうに声をかけると、依然としていぶかしげな声が戻ってきた。
「ただの打ち合わせ? んなわけないだろ。ただの打ち合わせに、なんで服装を指定してくるんだよ」
そう。俺の打ち合わせの相手は、とある企画会社なのだが、打ち合わせに来る際の服装を指定してきた。と、いうか。
「そもそもおかしいだろ! 関係ねぇ商品の撮影モデルを、どうして颯人に頼むんだよ!」
悠さんが再びヒートアップしてきた。ドアを押さえる手に力が入りすぎて、みしりと音がする。
そういうわけだ。
打ち合わせ相手に頼まれているのは、とある服の着用モデルだ。なんでそんなことを俺にやらせようとしているのかは知らない。本職の方に任せればいいと俺も思うが、「イメージがぴったりだった」と重ねて言われると断れない。
で、悠さんが憤っている原因は、その服のデザインにあるわけだ。しかし、俺は悠さんに一切服を見せていない。それなのに、どうして感づいたのか。どこかでのぞき見でもしたのだろうか。
ジャケットを羽織り、バッグを取って鍵を開け、ドアノブを引く。もちろん開かない。
「悠さん、そこをどいてください。遅刻します」
「行くな! 絶対だめだって言っただろっ」
悠さんの声が悲鳴じみてきた。
「じゃあ、いいです」
「はあ⁉」
「黙ってましたけど、隣の部屋に抜けるドアがあるんです。悠さんが通してくれないなら、こちらから行きます」
「だっ、だめだ颯人っ! 許さないって言ったろ⁉ だめだからな、見てないけど!」
はったりを掛けたら、とうとう本物の悲鳴になってしまった。
やはり悠さんは服装の詳細は知らないらしい。俺の態度から察したのだろう。隠し事は苦手だ。
「どうしました? 小原さん」
騒ぐ悠さんの声が聞こえたのだろう。誰かが近寄ってきた。
「いえ、うるさくてすみません。ちょっと、ですね」
あはは、とから笑いでごまかそうとしているのが気配で分かる。焦っている今がチャンスだ。
「いいですか、悠さん。もういい加減に出ますよ」
圧力がゆるんだのを見計らい、ドアを開ける。
「あ、おま、」
戸惑っている悠さんを押しのける勢いで、力いっぱい扉を押した。
外に出られたのはいいけれど、勢いあまって怒りで顔を赤くした悠さんの懐に飛び込む。
逃げようとしたけれど、がっちりと抱き込まれた。
「よーしいい子だ颯人。いろいろ言いたいことはあるが、まず服装をチェックさせろ」
はははと笑った悠さんが何かに気づく。
「? なんだ、このジッパー。なんでこんなところに付いてるんだ?」
俺のシャツの胸元を横切るように付けられたジッパー。何気なく開けようとした悠さんの手が空で止まった。
「こ、これって。開けたら、この下って」
怒りとは別の感情でまた顔を赤くして、わなわなと手を震わせる。
あ、まずいな、と思った時には、何かから隠すように俺を抱きしめた悠さんが声を上げていた。
「だめだからな! 絶対だめだ! 見てないけど!」
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