ゆびをかむ

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ゆびをかむ

「颯人、もっとキスしろ」  俺が唇を離して視線をもう一度合わせると、悠さんは命令口調でそんなことをねだる。 今日は俺が上。 足を絡めるのも、温かな肌の温度を直接感じるのも久しぶりで、なんだか気分が高揚し、俺にしては積極的に求めてみている。 そして、そんな俺を悠さんが喜ぶことを知っているから、その行為は少し大胆なものにもなるわけで。 「ふ」  見つめ合ったまま微笑んで、唇をゆるく重ね合わせる。舌を差し込むと、悠さんも絡みつかせてくる。それがなんだか愛おしくて、笑いながらキスを続けた。 手を伸ばして、ミルクティー色の髪を撫でる。指先に柔らかく馴染むそれは、お風呂上がりで少しだけ湿っている。 「悠さん。髪をちゃんと乾かさないと、後で変な癖がつきますよ」  そう言ったけれど、温かく盛り上がり始めたこの行為をやめる気なんて俺にはさらさらない。 「……」  案の定悠さんは無言だ。俺だって、もし悠さんが素直にドライヤーをかけに今すぐ向かおうものなら、拗ねるか、俺も洗面所についていく。 「……うっせ」  離れ難そうに俺の下唇を甘噛みしてから、悠さんがやっと小さく呟いた。 「颯人にこんなんされて、途中で止められるかよ。これからたっぷり汗かかせてくれるんだろ? 期待してるぜ」  長い指が俺の脇腹を軽くなぞり上げる。ざわり、と体の奥がつられて熱を持ち始める。 「汗、かいてくれるんですか?」  言いながら、腰を寄せたくなるのを我慢する。もう、悠さんに触れたくて、体が熱を帯びている。 気づかれるのは恥ずかしいから、触れるのは最小限にして、悠さんの耳元に唇を寄せた。 触れるか触れないかほどの距離で、やわやわと息を吐く。耳の形をなぞる。その度に悠さんが何かをこらえるように眉間に力を入れるのが見えて、それがさらに俺の熱を煽ってくれる。 「ねえ? 悠さん?」  耳に触れるだけでは物足りなくなって、シーツについていた片手を上げる。悠さんの肌の上を這わせて、腹のくぼみにそっと指を沈めた。 ぽん、ぽん、と上から蓋をするように覆ってみてから、縁をゆっくりと撫でる。 悠さんがつめた息を吐く。震えていた。 「ねえ」  囁きかけると、漆黒の瞳がまたたき、きゅっと眉が寄る。 「……な」 「はい?」  突然、悠さんが俺の肩を掴むと、くるりと上下を入れ替わるように上にいた俺をシーツに押し付けた。 「あ、お、ん、な。って言ってんだ」  唇をちらりとなめた悠さんの目は、昏く、熱く揺らいでいた。思わずその黒い瞳に見惚れながらそっとため息をつく。 「なんだよ、小悪魔颯人はもうおしまいか?」  何言ってるんですか。 俺はそう答えるかわりに悠さんの腰を掴み寄せると、俺のに重ねてそっと揺らした。 途端に悠さんが唇を噛みしめて黙る。 いつもは凛々しいその顔が、うっすらと赤く染まるのを眺めながら、俺自身も気持ちが高ぶるのを感じていた。 押しつけて、熱を分け合って、みだらに。 ともすれば独りよがりになってしまう行為だけれど、今に限っては二人で分かち合えていることは、悠さんの目を見れば分かった。  無言でこちらに差し伸べられた手を取って、その指先、人差し指の第一関節を優しく噛んだ。 その瞬間、見ていた悠さんが目を見開く。 「は、やと。噛み切ってくれ」  一拍置いて、熱のこもったかすれ声で目を潤ませ、悠さんは囁いた。 甘く、せつなる声。 もちろん無視することなんてできない。 俺は少しだけ力を入れて指に歯を立て、そして、俺を愛してくれるその体に溺れることにした。
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