嘘つき

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 3か月。  出会って3か月。そこからもちゃもちゃして付き合いだして、ナニをするのに少し時間が必要で、と考えると、おい。 「なあ優一、つき合おうって言ったのはどっちから?」 「えっと、彼女の方から」 「わりとすぐ?」 「……かな、挨拶に行った時に知り合って、その後何度か繰り返して話をしたりしてて」 「で突然つき合いたいって?」 「一目ぼれでしたって」  言いながら優一は照れまくっている。  頭をかきながら顔を赤くして。額には汗をにじませている。  そういう仕草、多分、女にウケないんだけど僕にはぐっとくる。野暮ったさが最高に滾る。ああ、やっぱり好き。   「で、彼女に誘われて一回して、子供が出来たと」  グラスの氷が音を立てて落ちた。残り一口のお酒をぶっかけて「頭を冷やせ」と言ってやりたい衝動を抑えながら、ゆっくりとグラスを回した。 「ちゃんと避妊はしていたつもりなんだけどな。でも子供ができたならすぐにでも結婚をと思って。プロポーズした」  はあああっと深いため息が出た。  奥手な優一が愛おしいと思う。  優しくて裏表がなくて、不器用な優一が好きだ。    だからこそこれはない。  どう考えたって計算が合わない。  そのことに全く気がつかない優一に腹が立った。お人よしにもほどがある。どこぞの男がやらかした責任を取る理由がどこにあるっていうんだ。 「言いにくいけどさ、彼女、他に誰かいないの?」 「誰かって?」  意味が分からないときょとんとする優一にさらに続けた。 「男」 「何言ってんだ。俺の彼女だぞ?」 「だからさ、お前の前に」  というか同時進行かもしれないけど。優一の方が優良物件だから、とは飲み込んだ。  沈黙が続いた。  優一は何も言わない。だけどふっと小さな息を吐くと「光琉」と囁くようできっぱりとした声で僕を呼んだ。 「いくらお前でも許せない発言だぞ」 「でも、」と言いかけるのを遮る様に首を振った。 「これ以上話したくない。帰る」 「優一!」 「俺の大切な人を侮辱するのは許さない」  そういう優一の瞳は静かな怒りをたたえていた。初めて見る拒絶の色。こんな顔をさせたかったわけじゃない。 「優一」 「落ち着いたらまた連絡する」  優一は振り返らなかった。カウンターの上に置かれた紙幣がそれ見たことかという顔をしている。僕は動けないで優一のいなくなった扉をただ見つめていた。
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