出会い

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「おれは絶対泣かさないって。あなたのそばにいるよって約束したじゃない」  そのまま首筋に唇が触れた。まるで電流が走ったように震える。 「っ、あ」 「それなのに覚えてないなんてひどいな。あんなに必死に口説いたのに」 「そこでしゃべんないで」  彼が口を動かすたびに皮膚に触れて火花を散らした。灯った火が全身に飛んで広がっていく。 「あなたは幸せになりたいって願った。おれが叶えてあげるって言ったのも忘れちゃった?」  そのまま強く吸い上げられた。ビクンと身体が跳ねる。 「誰ともしたことないって言ってたけど本当? こんなに感じやすいのに」  そんなこともベラベラとしゃべっていたのか、僕は! 恥ずかしさに全身が火照りだす。 「忘れてくれ」 「やだよ。あなたが忘れた分おれが覚えてる」  ちゅ、ちゅ、と音を立てながら彼の唇が体の上を跳ねる。吸われた点が繋がったように全身に気持ちよさが広がっていった。その敏感は触られていない場所にも伝播していく。  モゾモゾと足の間を擦り合わせた。  それは当然相手にも伝わっていて、彼のふくらみも押しつけられた。ゆっくりと起ちあがりはじめた快楽の萌し。  お互いに興奮しているのが分かる。 「光琉さんも気持ちよくなってくれてる?」 「あっ、う、ん、……なってる」 「おれも。わかる? こんななってるの」  重なる欲望は熱を持ち膨らんでいく。  恥ずかしさに首を振ると倫也のクルクルの髪の毛が肩に落ちた。首筋に息がかかる。 「好きって言ったら信じる?」  倫也は首筋にグリグリと頭を押しつけながら囁いた。 「軽い気持ちのナンパだったけどあなたの事好きになりそうって言ったら、信じる?」  湿った吐息が倫也の興奮を伝えている。  動揺する僕を逃さないように倫也は慣れたように唇を啄み始めた。  ちゅっと音を立てて小鳥が戯れるように。頬におでこにまぶたにと移り行く柔らかさに蕩けてしまいそうになる。  気持ちいい。思わず顎を上げて先を求める動きをしてしまった。   「光琉さん、もっとおれを欲しがって」  くいっと顎を持ち上げられて薄く開いた唇の間に舌が潜り込んできた。  ベルベットのような滑らかさが舐る様に絡まった。食べられそうなくらい吸われたかと思うと粘膜を擦り合わせるように触れ合わせる。味蕾が互いの味を覚えるように。  離すとツーっとたどる様に上の唇に、下へと場所を変えていく。くすぐったさに身をよじるとベッドと背中の隙間を大きなてのひらで撫でられた。そのままゆるりと円を描くように撫でられると全身が粟立った。  思わず声が漏れる。  甘えるような自分の声音にぎょっとする。思ってもいない、いやらしい声。急に我に返って目を開けると至近距離で倫也と目が合った。 「あっ、ごめ……っ、変な声」 「変じゃないよ。気持ちよさそうだなって嬉しい」  首筋を強く吸われて腰が跳ねた。 「やっ」 「光琉さんどこも感じやすいんだね」 「そんなこと、な、いっ」 「そうなの?」  唇が体を辿って降りていく。  本当は気持ちよさでどうにかなりそうだ。セックスに対して身構えていたけど、今ならわかる。こんなにじかに触れ合う行為は他にない。愛情の交換をしたがった過去の恋人たちはこんな風に僕と触れ合いたかったのかもしれない。  フワフワ夢見心地で大切に扱われている感じがたまらない。  このまま流されてセックスしちゃうんじゃないかと思ったら急に優一の顔を思い出した。呆れたように僕を見ている。お前は俺がすきなんじゃないのかと責めるように口が動いた。 「優一」  思わず名前を呼んでいた。倫也が不思議そうに動きを止める。 「光琉さん?」 「やっぱダメ」 「なんで?」 「だって、……だって、」  声にならなかった。  優一が好きだ。  好きで仕方ない。報われないのにこんな時に思い出すくらい僕の中に巣くっている。  思わず手で顔を覆った。  情けない。全裸でベッドにもぐりこんでキスで気持ちよくなったくせに直前で嫌だなんて、どこのビッチだよと恥ずかしくなる。だったら脱ぐなよ、人の家に入っていくなよ。 「ごめん」  謝ると強い力で腕をはがされ、シーツに縫い留められた。 「光琉さん、よく聞いて」  まっすぐな視線をむけられている。 「あなたが他の人を好きなのは知ってる。昨日じゅうぶん聞いたよ。でもおれはあなたを幸せにしてあげたいって思ったんだ。だからおれの事利用していいよ」 「倫也……」 「好きだって言った事、ちゃんと覚えていて」  真剣な表情の訴えに頷いた。  ホッとしたように笑みを浮かべた倫也が覆いかぶさって頬にキスが落ちる。そのまま餅のように吸い上げられた。ちゅぽんっと音がして唇がはがれる。 「痕ついちゃった」 「は?」 「ほっぺた。丸く赤くなっちゃった」 「お前っ、なにしてんだよっ」 「ふふ、途中で逃げたからだよ」  ふざけるようにおでこをグリグリとしてから倫也は体をどけた。 「おなかすいたでしょ? なんか食べるものあったかな」  ベッドから降りた倫也の整った肉体は美しくておもわず見惚れてしまった。若いと言うだけじゃなく均整の取れた、しなやかで筋肉質な身体。これに抱きしめられたのかと思うと、ぐっとくるものがあった。  視線に気がついたのか、シャツを手にしたまま両手を広げほいっとこちらを 向いた。 「見たい?」 「いい! 早く着て!」  さすがに居たたまれない。 「そう? おれは光琉さんの見たいけど……」 「見せるようなもんじゃないから」 「ちぇーっ。今度またゆっくりね」  倫也は今度はちゃんと服を着てから部屋を出ていった。残された僕は力が抜けたようにベッドに倒れ込む。  すごかった。  ものすごかった。セックスする前からこんなにとろけてしまった自分に驚いた。   優一のことが頭をかすめなかったからどうなっていたんだろう。  案外脆い自分の貞操にも少し呆れる。
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