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嘘つき
今日もまた嘘をつく。
心だけが軋んだ音を立てる。だけど僕は笑顔でちゃんと正解を口にする。
「よかったじゃん、おめでとう」
目の前の友人はそれを当然とした顔で受け止めた。
僕、渡辺光琉は恋人ができたと嬉しそうに笑う友人、佐々優一の肩を叩くと、「おい~羨ましいなあ」と本音を混ぜた軽口をたたいた。
羨ましいのは本当。
優一とつきあえる彼女が羨ましい。
優一とは高校の時からの付き合いだ。一目ぼれをしてから10年がたつ。こんなに長い間報われない恋をし続ける自分が健気なのかただのバカなのかよくわからない。
他の人と付き合ってみたけれどやっぱり優一以上に好きにはなれなくて、接触された瞬間ごめんなさいを繰り返してきた。
ここまで来たら愛想がつくまで好きでいてやろうと覚悟を決めたのにこれだ。
優一はとにかくモテる。
名前通り優しい男だし、ふわりと包容力のある空気が駄々洩れで、マシュマロのような甘い顔で微笑まれたらイチコロだ。狙い撃ちされたように恋に落ちる。
落ちた本人が言ってるんだから間違いない。
今回は通算14人目の彼女。
優しすぎて物足りないと振られるらしいけど、こっちにしてみれば贅沢言ってんなよバカヤロウ! って気分だ。
優一に優しくされて文句を言うなんて、だったら僕と変われよクソヤロウって心の声をおくびにも出さず、そういう時は「残念だったな。見る目がないんだよその女」とオブラートに包んだ慰めを送る。
おめでとうと残念だなを繰り返すしかない僕は人知れない場所で一人泣いている。優一がそんなことを知るはずもないけれど。
14人目の彼女は営業先で知り合った女らしかった。
「なんかほっておけないっていうか、危なっかしい子でさ。おっとりしてて俺が守ってあげなきゃって思わされたんだ」
そう蕩けるような笑みを浮かべられたら僕は何も言えなくなる。
今度こそ幸せになって欲しいと、誰のものにもなって欲しくないが入り混じる。
ほんと嫌になるな。
いつまでこんなつらい事を繰り返すんだろう。さっさと振られて忘れてしまえばいいのに、友達でいることを手離せない。
どういう形であっても優一のそばにいたい。
僕のせつない気持ちに気がつかない優一は親友って顔で僕に言う。
「それでな。急だけど結婚することにしたんだ」
目の前が真っ暗になった。
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