*自動車の要らない星*

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 ある惑星に、大勢の技師を乗せた宇宙船が着陸した。その星は、地球にそっくりだった。彼らのふるさとと同じように、山や谷がたくさんある。暑い地方にはぬかるみが広がっていて、寒い地方には氷が張っていた。そして、地球人によく似た、賢くて器用な二本足の生き物が暮していた。  地球人たちは、荒原にある村を訪れた。この星の人々は、石や土で道具を作り、川の生き物や果物を食べて生きているようだ。 「あなた方にお見せしたいものがあります。村の人々を集めていただけませんか」  地球人の代表は現地の言葉で、村長に伝えた。  広々とした原っぱに老若男女が集められた。目の前には一台の自動車が置いてある。宇宙船に積んであったものだ。村人たちは、興味深そうにそれを眺めている。  地球人の代表が自動車に乗り込む。程なくして、あらかじめ決めておいた走路を自動で走りはじめた。急に動き出した見慣れない物体に、はじめは、怖がって逃げ出す者もいた。彼らが見たことのある、陸を走り回るものと言えば、獣くらいのものなのだ。  しかし、しばらくすると、これが便利な乗物であることが伝わったようだ。現地の人々は手を叩き、大きな歓声を上げた。  自動車を降り、地球人の代表は演説した。 「我々は、地球という遠い星からやってきました。地球には、この自動車のように便利な仕掛がたくさんあります。あなた方に、その智識をお伝えいたしましょう」  たくさんの拍手に迎えられて、地球人たちはすっかり気氛(きぶん)をよくした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加