*自動車の要らない星*

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 希望者に工学のいろはを学ばせると、さっそく、この星で自動車製造がはじまった。彼らは初め、習った通りに自動車を造っていたが、やがて、いろいろな工夫を施すようになった。無駄を省いた、効率的な仕組を作ることに長けていたのだ。今まで思いもよらなかったような欠点を見つけて、みるみるうちに自動車を改良してゆくので、熟練の技術者たちも本当に驚かされた。  別の日には、山に隧道を掘る方法や、谷に橋を架ける方法を教えた。ぬかるみに混凝土(コンクリート)を敷き、車が沈まないようにしたり、湯を自動で撒いて、道が凍らないようにする機械も仕掛けてやった。  もちろん、上手くいくことばかりでもない。この星には、鹿や馬などの獣に似た、身軽で可愛らしい生き物がいた。そのすらりとした脚は、この星の地形によく適応していて、岩山でも沼地でも氷の上でもすばしっこく駈け回れた。この獣が工事現場に飛び込んできては、人懐っこく絡んでくるので、みんなはその度に仕事を中断しなければならなかった。
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