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すごく恐いのに、目が離せなくなってしまった。
手が、いや、体中が震えていた。
どうしよう…どうしよう…殺されちゃう…
警察に電話した方がいいのかな…
お母さんに言っても、相手にしてもらえないし…
でも、電話が…
我が家に固定電話はないし、母のケータイは母が肌身離さず持ち歩いている。
―――無理だ…
ニコちゃんのママがぐったりして、男はつかんでいた髪の毛を離した。
そして、見えるところから消えた。
ニコちゃんのママだけが見える。
手が動いたから、生きている…
良かった…
―――良かった?
『いつもニコちゃんを殴ったり、蹴ったりする罰なんじゃないか?』
僕の中の悪魔がそう言った。
『あんな親の元にいたら、いつかニコちゃんが死んじゃうよ。』
『あんな親、いない方がいいんじゃないか?』
そんな風に思ってしまった自分が、どうしても悪い子な気がして頭を抱えて目を瞑った。
「カケルー…ご飯できたから、いらっしゃーい」
ご機嫌の声でお母さんが僕を呼んだ。
僕はその声にビクっとして立ち上がった。
―――あ…
いつもは、ニコちゃんの家を覗くときはかがんだまま移動するのだが、思いっきり立ち上がってしまった。
ニコちゃんのママと目が合った気がした。
僕はギョッとした。
ニコちゃんのママの手は真っ赤で、その手には包丁が握られていたからだ。
僕は、何も見てない風を装って部屋を出た。
本能的にそれが賢明だと思ったのだ。
心臓がバクバクと胸を突き破って出てきそうなほど激しい。
僕は、ニコちゃんのことを思った。
――― ニコちゃん、帰っちゃダメだ…
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