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「……アイザイア様? 私に、何か御用でしょうか……?」
アイザイア様が待っていると伝えられた中庭に私が出向くと、そこではアイザイア様がいつもの場所にて優雅に紅茶を飲んでおられました。ですが、すぐに私に気が付いてくださりにっこりとした笑みを向けてくださいます。私にとってその表情は、いつもよりも柔らかい気がしました。……まぁ、気のせいなのでしょうが。
「あぁ、モニカ。急に呼んだりしてごめんね。俺が休みになって、モニカも休みだって聞いたからさ。お茶でもしようかなって思ったんだ」
そうおっしゃいながら、アイザイア様は目の前の椅子を私に勧めてくださいました。なので、私はそのお誘いに乗り、椅子に腰かけました。本日選んだドレスは淡い水色のものです。これは、私がとても気に入っていて、何度も何度もコーディネートを変えてまで着ているものです。このドレスを身に纏えば、少しは気分が晴れるかもしれない。そう、思っての行動でした。でも、その期待は裏切られたに等しかったのですけれど。
「ルーサー。モニカの分のお茶を」
「はい、アイザイア様」
そんな会話のすぐ後に、私の前に湯気の上がった紅茶が出されます。一口飲めば、口の中に広がる味。その味に、私は驚きました。だって、これは私が好きなブレンドだったからです。よくよく見れば、隣にお茶菓子として出されているケーキも、私が好きだと常日頃から言っていたものです。
――もしかして、私のことを励ましてくださっている?
そう思いましたが、アイザイア様が本日私が落ち込んでいるということを、知っているわけがありません。すべては、偶然なのです。そう、私は思いこむことにしました。紅茶もケーキも、本日用意できたものがこれだった。そんなことを、自分自身に言い聞かせました。じゃないと……なんだか、期待してしまいそうなのです。
「……モニカ? 浮かない表情をしているけれど、やっぱり、何かがあったんだろう?」
しばらく他愛のないお話をしていた私たちでしたが、不意にアイザイア様が私にそう声をかけてくださいました。それに、私はまたしても驚いてしまいます。……普段通りの表情を装っていたはずなのに。なのに……どうして、気分が落ち込んでいることをアイザイア様が知っていらっしゃるのでしょうか?
「……いいえ、特にいつもと変わりありませんわ」
ですが、やはり私は素直にはなれませんでした。こんな時、素直になれたら可愛らしいと思うのに。そう思うのに、いつも素直になれない。いつも……強がってしまうのです。
「……嘘が下手だね。……モニカは、よく頑張っているよ。だから、完璧になんてならなくてもいいんだ。大切なのは努力することと優しさなんだから。……偉いよ、モニカは、すごくいい子で優しい子だ」
「っつ!」
そのお言葉に、私の身体が小さく震えました。
――妹扱いは、もういい加減やめてほしい。
そんな言葉が、脳内ではループするのに、実際には口には出せません。
しかも、ポツリポツリと涙がこぼれてしまいました。……これは、一体何なのでしょうか?
「……頑張ってるの。俺はきちんと知っているからね」
――どうして、このお方は、人が弱っているときに限ってそんな優しいお言葉をかけてこられるのだろうか。そう言うところが――大嫌いで、大好きなんだ。
「……あり、が、とう、ございます……」
その気持ちを実感しながら、とぎれとぎれに伝えた感謝の言葉。それは、しっかりとアイザイア様の元に届いていたようでした。
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