第20話 『終焉へと』

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「モニカ、気を付けてね。ここは段差が多いから」 「……はい、アイザイア様」  そして、アラン様を捕らえていた牢から少し奥に進んだ先。そこには、一つのお部屋がありました。きっと、地下牢ということなので兵士が待機するためのお部屋という役割のお部屋なのでしょう。少しばかり、綺麗にしてあります。 「あら、モニカ様じゃない。私のことを、嘲笑いに来たのかしら?」  そのお部屋の中。そこには、今までとは全く違う地味な装いのレノーレ様が、いらっしゃいました。足には足枷が付いており、逃げられないようになっているようです。綺麗だった縦ロールの髪も、かなり傷んでおり、その身に纏っている装いも平民以下のものです。そりゃそうです。レノーレ様のご実家であるビエナート家は大罪を犯した貴族として、身分はく奪の上国外追放にされようとしているのですから。ちなみに、ベアリング家も同じ処分です。まぁ、黒幕であるアラン様のみ別の処罰が下されるそうですが。  レノーレ様は身分こそ落ちたものの、その自信満々な表情は未だに健在でした。その目には憎悪が籠っており、私を強くにらみつけてもいます。……怖い。無意識のうちに、私はそう思ってしまいました。だから、アイザイア様の服を掴んでしまいます。アイザイア様は、そんな私の手を振りほどくこともなく、ただその場でレノーレ様のことを見据えていらっしゃいました。 「落ちぶれた貴族の令嬢って、辛いわぁ。……アイザイア様も奪われちゃったし、私っていったい何なのかしらね」 「アイザイア様は、レノーレ様のものではありませんわ」 「あら? そんなことを言うのね。……あぁ、貴女さえ生まれなければ、私がアイザイア様の婚約者だったのに。私が王妃になって、国に君臨できたのになぁ。……本当に、憎いわ」  そうおっしゃったレノーレ様は、鎖が届く範囲の限界まで、こちらに寄ってきます。だから、私は後ずさりをしました。レノーレ様は、今、行動を制限されている。だから、私が後ずさりをすれば、届かない。それを、分かっていたからの行動でした。 「憎いわ。憎くて憎くて、仕方がないわ。……この私が、あんたみたいな女にアイザイア様を奪われた挙句、アランごときにまで利用されていたなんてっ! 一生の恥だわ。……あぁ、そうだわ。あんたも道連れにしてあげようかしら? うん、きっとそれが良いわぁ!」 「な、なにを……」  レノーレ様は名案を思い付いたとばかりに笑顔になると、ご自身の懐からナイフを取り出し、私に向けてきました。……どうして、どうして。どうして、囚われている人間が、ナイフなんて凶器を持っているの? それに、鎖がミシミシと音を立てている。怖い。そう思って、私の頭が混乱する。私は、また一歩、一歩と後ずさることしか出来ない。 「……レノーレ嬢。もう、そういうことは止めてもらおうか。これ以上重い処罰になりたければ、その凶器を手放せ。それとも、今ここで息の根を止めてやろうか? ほかでもない、この俺が」 「あ、アイザイア様?」  アイザイア様が、そんなことをおっしゃって私とレノーレ様の間に入り込みます。ダメだ。そこにいらっしゃったら、まだ鎖が届いてしまう。アイザイア様が……刺されてしまう。 「いいわよ。殺せるものならば、殺しなさい。その代わり……アイザイア様も、道連れにしてあげるわ。私、これでも呪いの類は得意なのよ」  そんなことをおっしゃったレノーレ様が、アイザイア様に対してナイフを向ける。その瞬間、怖くて私は目を瞑ってしまった。こうなったのは、私の所為。だから、助けなくちゃ。そう思うのに、身体が硬直して動かなかった。 「……バカだな。相当、頭が悪いみたいだ」 「ど、どうして……!」  しかし、私はすぐに目を開きました。だって、絶対零度ともとれるアイザイア様のお声が、聞こえてきたから。さらには、レノーレ様の驚いたような、苦しそうな声。意味が分からなくて……私は、目を開けた。すると、そこにあった光景は――……。  ――レノーレ様が、自らにナイフを突き刺しているという、異常な光景でした。
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