Epilogue1 『美しき狂気に魅せられて』

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** 「モニカ、どう? ウエディングの準備は進んでいるかな?」 「はい、とても順調です。ドレスも素敵なものを仕立てていただけているようで……」 「そっか。モニカのウエディングドレス姿、楽しみだなぁ」  あれから少し経った頃。私は二十歳を迎えていました。『粛清』の方もかなり落ち着き、少しずつ王国も平穏を取り戻し始めています。悪徳貴族の成敗を行ったおかげか、貴族社会に対する不満も減り、王国内も平和になり始めていました。アイザイア様の弟様である四人の王子様方もそれぞれとてもいいお方を見つけたらしく、最近は結婚に対して前向きになっているそうです。  ちなみに、今から半年前。一足先にルーサーさんとヴィニーが結婚しました。周囲は驚いておりましたが、私は「ようやく結婚したかぁ」みたいな感じで、特に驚きはしませんでした。二人はとても仲睦まじく、理想の夫婦として使用人たちの間では憧れの的だとかなんとか。それに、美男美女ですからね。 「でも、ヴィニーがいないと寂しいです。いつも一緒だったので……」 「そうだね。でも、結婚式には顔を出してくれるんだろう? なんといっても、モニカの姉みたいな存在なんだから」 「はい、その時には子供の生まれているみたいですし、顔を出してくれるそうです」  私とアイザイア様は、そんな会話を繰り広げます。ヴィニーは結婚してから少ししたとき、妊娠が発覚し、今は産休に入っています。性別は分かりませんが、それでもとても可愛らしい子なのでしょうね。あぁ、今から会えるのが楽しみです。 「……ねぇ、モニカ。こんな俺でも、本当によかったのかな?」  ふと、アイザイア様がそんなことを私に問いかけてこられます。でも、その表情は満面の笑みで。そんなこと、微塵も思っていないのが伝わってきました。このお方は、時折こうやって私のことをからかいます。どうせ、今日もあの言葉が欲しくて、こんなことを問いかけていらっしゃるだけなのです。でも、私はその言葉をすぐに口に出してしまいます。だって、本当のことだから。 「もちろんです。私は、アイザイア様のことが好きで、大好きで、愛していて、お慕いしているのですから。……アイザイア様こそ、私なんかでよかったのですか?」  逆にそう尋ね返してみれば、アイザイア様はにっこりと笑われて「モニカ以外、考えられないよ」とおっしゃってくださいます。それが、とても嬉しかった。だから、私は自然と笑顔になれます。あぁ、本当にべた惚れなのだろうな。私は、そう思ってしまう。結婚式の日程は少しばかり遅れていますが、日に日に好きという感情は増していくばかり。これからは、王太子の婚約者、ではなく王太子妃として王宮で生活することになります。今までのものよりも、数倍厳しいお妃教育も待っています。……それでも、いいのです。だって、私はアイザイア様をお慕いしているから。だから……どんな厳しいお妃教育にも、耐えられると思うのです。 「私、アイザイア様のすべてが好きですよ。そのお優しい性格も、狂ったところも、嫉妬深いところも。……いうならば、私ってきっと魅せられちゃったのです」 「……魅せられた?」 「そうです。アイザイア様の、それはそれは美しい狂気に。……なんだか、私の方も嫉妬深くなっちゃいそうです」 「それはそれは。とても嬉しいことを言ってくれるね。……もっと、嫉妬してくれてもいいんだよ?」 「……考えておきますわ」  目の前の紅茶の入ったカップを、ティースプーンでかき混ぜながら、私はそう言っていました。紅茶の水面に映った私は、笑顔でした。不安な日々を乗り越えた私は、今とても幸せです。 「あ、そう言えば。結婚式には他国の王族ももちろん招くんだけれど、あいつも来てくれるってさ。もちろん、妻も連れて」 「まぁ、そうですの? ふふっ、またあの子とも会えるのですね!」  とある帝国の、皇帝夫妻。私たちが、視察という名目で向かった帝国で出逢った、とある方々。当時は皇太子とその婚約者だったのですが、今から三ヶ月前に皇位を継ぎ、正式にご結婚されました。その方々も来てくださるなんて……とても、嬉しい。 「新婚旅行もあの帝国でいいかもね。……あいつといると、なんだかんだ言っても気が休まるし」 「そうですね。私も、あの子といると楽しいのです。……なんだか、親友みたいな感じで」 「……俺はあいつのことを親友だなんて、微塵も思っていないけれどな。むしろ、どちらかというと悪友」  そんな軽口をたたき合いながら、私たちはどちらともなく微笑み合う。私たちは、きっとこれからも幸せに生きていくのでしょう。多分、困難にもたくさんぶち当たるし、すれ違うこともあると思います。それでも、私は頑張っていく。アイザイア様と、一緒に。  ……え? アラン様やレノーレ様があの後どうなったのか?  それは……また機会があれば、ですね。
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