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それぞれの思惑 Ⅱ
「えいっ、やぁ」
叫び続けているのはハルヤストだ。ルビツキは息切れが嵩じて咳き込んでいた。
当初は軽くハルヤストをあしらっていたようにみえたチャーリーの額に汗がしたたりはじめていた。イロットパはチャーリーの棒術を動き、一連の流れをどこかでみたことを思い出した。
(あれは……確かギミヤ王国の衛士長が……)
その名は忘れたが、逃亡中の頃だったはずである。自分を護ってくれていた者が数人がかりでその衛士長に立ち向かった……。
(あのときの動きにすっごく似てる……! じゃあ、この青年は、あの衛士長の弟子かなにか……?)
そんなことを考えていると、音もなく近寄ってきていたヴァンさんが、ひょいとイロットパの胸を左手でさぐって、ピグモンテをつまみ出した。
「えっ?」
イロットパは抵抗する間もなく、目の前で手のひらの上にピグモンテをのせたヴァンさんの顔を見た。フードがはらりとはずれたとき、ヴァンさんの長髪が風に舞っていた。
ヴァンさんはウエストバッグから分厚い鼈甲の眼鏡を取り出し、かけてからじっとピグモンテをみていた。
それはおそらく普通の眼鏡ではなく、なにか医療用のものか、それとも呪物のようなものかとイロットパは察した。すぐそばでは、チャーリーとハルヤストのすさまじい闘いが繰り広げられている。その一方で、ヴァンさんの周りだけは、あたかも別の時空にすっぽりと包み込まれているかのような静寂があった。先ほどまで吹いていた風すらも停まったようにもイロットパにはおもえた。
「▲□○●▽〰️〰️」
つぶやいたのはヴァンさんだが、イロットパには異国語のように聴こえた。いや、言語なのか、言語以前の意思疎通手法なのか、聴き定め難い。
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