背中

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追いかけても追いかけても、先を歩いている優さんの後ろ姿は、遥か彼方に見える。 一生追いつくことは出来ないであろう。 優之進と出会ったのは、素行の悪かった兄が迷惑をかけた道場に謝罪に行った時だ。 以前より、そこの道場には、 「平川優之進という若いが強い剣士がいる」 という噂を耳にしていたので、父からその名を聞いた時、 (会ってみたい) と思い、 「父上の代わりに私が行ってきます」 とお願いした。 外まで大きな声が聞こえ、活気のある道場の裏手の玄関から、 「すいません」 と声をかける。 「はい」 と奥から声がして、右腕に湿布を貼っている男の人が、玄関に現れた。 「岸川孫次郎と申します。  先日は兄がご迷惑をおかけしました。  申し訳ございませんでした」 と孫次郎は頭を下げた。 「道場主の岡本です。  さぁ、上がって」 と岡本は言って、奥に入っていったので、 「失礼致します」 と孫次郎も中に入った。 岡本と会い向かいに座り、 「これは、父からのお詫びになります。  どうかお納めください」 と孫次郎は言いながら、包みから菓子箱を出して岡本の前に置いた。 「ありがたく頂戴致します」 と岡本は言ってから、 「兄上はどうされた?」 と聞かれたので、
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