背中

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「はい」 と孫次郎は答えて、2人で家の中に入る。 「ちょっと待っていてください」 と優之進は、刀を刀掛けに置き、奥に入っていく。 部屋は綺麗に片付いており、ほこり一つ落ちていない。 「お待たせしました」 と優之進が部屋に入ってきて、孫次郎の前にお茶を置く。 「いただきます」 と言って、孫次郎は一口お茶を飲み、 「優さんと呼んでもいいですか?」 と聞いてみると、 「はい、僕は孫さんとお呼びします」 と優之進は、笑顔で答えた。 「優さんのように強い方でも稽古されるのですね」 と孫次郎が言うと、 「孫さん、僕は好きな絵の道を進むことを許してくれた父と約束したのです。  剣の修行も続けると」 と優之進は言って、お茶を飲み、 「私より強い人はたくさんいますよ」 と笑顔で言った。 「優さん、これから色々なことを学ばせてもらい。  邪魔はしないので一緒にいてもいいですか?」 と聞くと、優之進は驚いた顔をしていたが、 「いいですよ」 と笑顔で答えてくれた。 帰り道の孫次郎の足取りは軽かった。 月に向かい、 (優さんの背中をこれから追いかける) と誓い、 「よし、帰ったら刀を振ろう」 と声に出して言った。
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