序章

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胸の中で揺らめく炎が、ゆっくりと、灰と蝋で出来た人形を燃やしていく。 蝋は溶けて固まりながら、陶器のような純白の皮膚となり、 焦げた灰は、髪をくすんだ色に染め上げ、 燃え盛る炎は、彼女の瞳に、淡い琥珀色を灯した。 「……おじさん、誰…?」 それはもはや、灰の人形と呼べる代物などではなく、我々と遜色のない『人』そのものであった。 瞳や髪の色こそ違うが、亡き娘の面影を感じさせる少女の姿に、私は思わず涙を零す。 「大丈夫…?」 不安気な視線を向けながらも、少女が私の頬へ手を伸ばす。 触れた指先が崩れて、灰の粒子が舞う。 煤けた匂いが、嫌に鼻についた。 「…許してくれ、ダリア」 ダリアと呼んだ少女を抱き寄せる。 私とこの子は、もう、周りと同じ時間を歩む事は出来ない。 限られた中で、最良の日々になるよう祈るしかないんだ。 「ダリア?それって、私の名前なの?」 無邪気な少女の声が耳に響く。 身勝手な私の欲が招くこれからの悲劇を思うと、胸が締め付けられるような気がしてならない。 「あぁ、そうさ。君の名前だよ」 無垢なその瞳に映る私は、一体どれだけ醜悪に映っている事だろう。 でも、この選択に、後悔は無い。 娘と過ごせる日々を、もう一度だけ、 その為ならば、何を犠牲にしたって構わない。 「ダリア、私の愛しい孫娘よ」 ーすまない、、 気休めにもならない謝罪は、声になる事も無く、そっと、胸の中へ消えていった。
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