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「こんにちは。よろしくお願いします」
どこか掠れた声で入院することになった患者はそう言い、頭を下げる。梓もペコリとお辞儀を返し、笑顔で「こちらこそよろしくお願いします」と返した。
佐野誠、五十八歳。咽頭癌のステージニであり、声帯切除の手術予定の患者だ。清潔でおしゃれなシャツを着こなし、礼儀正しい人という印象を梓は覚えた。
「佐野さんのお部屋はここの個室になります。病衣などをお持ちしますので、少々お待ちください」
部屋まで案内した後、梓は病院から貸す病衣などを取りに行き、個室のドアをノックする。
「失礼します」
梓がそう声をかけてドアを開けると、ベッドに座って誠はスマホの画面を見ていた。その横顔はどこか寂しげであり、梓は声をかけてしまった。
「佐野さん、何を見てるんですか?」
「Instagramだよ」
そう言い、誠は画面を見せる。そこには一人の女性がパンケーキを食べている写真があった。水色のワンピースを着た女性の左手の薬指には、ダイヤモンドの指輪が嵌められている。誠はこの女性をフォローしているようだ。
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