この声を失う前に

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栗花落総合病院の六階は外科病棟である。毎日のように手術予定の患者が多く入退院し、そこで働く看護師や看護補助員は毎日のように汗を流している。看護師歴三年目の花山梓もその一人だ。 「ハァ〜……。六百十三号室の木村さん、本当に勘弁してほしい……。ナースコール午前中だけで百回近く押してくるし、その内容はどうでもいい内容だし」 ナースコールが鳴り、患者の部屋に行ってナースステーションまで帰って来た梓は新人看護師の岡村陸に愚痴を言う。陸はその話を聞くと顔を顰めた。 「木村さん、酷い時には五分おきにナースコール鳴らしてきますからね。「テレビのリモコン取ってください」とか「お水コップに入れてください」とか自分でやってくださいって言いたいですよね。動ける人なんですから」 「ほんとそれ!さっきも「携帯の充電器はどこにいったのかしら?」って言ってきて、充電器床頭台の上にドンと置いてあるのよ!あるじゃん!」 梓と陸が一人の患者のことを話していると、「花山さん」と六階病棟の看護師長である山北里美に話しかけられる。 「咽頭癌で入院予定の男の人、受け持ちになってくれない?自立の人だから」 「あっ、はい。大丈夫です」 今日も入院する患者がやって来る。梓は部屋が空いているかどうか確認をし、必要な書類などの準備を始めた。
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