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例えばきみは、まだ明けきらぬ早朝の海に来ている。 季節外れの暑さで眠れない時間をを紛らわせるように、明けて行く蒼空を見ながら砂浜に腰を下ろしている。 さらさらした白砂。ひんやりした感触。砂浜はまだ眠りの中。 デニムのショートパンツから伸びた細いその脚はまだ日焼けへの準備ができておらず、薄闇の中、そこだけ蒼白く浮き上がって見える。 潮風の匂い。朝の匂い。 寄せて来る小波の音を聞きながら、きみは一昨年の夏の事を思い出す。頭の隅に押し込めていたあの夏の日を思い出す。 手にした缶ビールは、近くのコンビニで買ったもの。安くはない、ちゃんとしたビール。 それは彼が好きだったもの。苦味が先に来て、口の中を何かが洗い落とすような感覚。 プルを開け、さざ波の音の中でひと口飲むと、ごくりという自分の喉の音がやけに大きく感じられて、少しきみは驚く。 彼ののどを思い出す。太い首。のどぼとけの動き。低めの声で、ピアスに唇が触れるほど耳のそばで囁かれる時のくすぐったさ。 今は風が撫でていくだけ。
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