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【1】キミのすべては俺のもの
「おはよ、マユ」
「ん、はよ」
まだ視線がとろんとしているマユに声をかける。
マユは歯ブラシに歯磨き粉をつけている俺の隣に並び、洗顔料を手にのせる。
「ナミは?」
「とっくに仕事行ってる」
俺、安藤要と恋人の黛侑大、会田ほなみは3LDKの部屋で一緒に暮らしている。
正しくは俺と侑大…マユがふたりで住んでいる部屋に、俺の知り合いだったビアンのほなみが間借りしている。
各一部屋を使用し、風呂・キッチン・トイレなどは共同。
楽しくも不思議な生活。
俺とマユは付き合っているからうまくいくけど、ほなみがノンケだったら絶対無理な生活。
ビアンでタチだからか、これが結構うまくいっている。
ちなみに俺はバイ、マユはゲイだ。
顔を洗い終え、歯を磨くマユはまだぼんやりしている。
いつまで経っても朝が弱いなと思うがそんな姿も可愛い。
「マユも今日は早番だよな?」
「ん」
「まだ十時だし、どっか出かけてから直で店行く?」
ふるふると横に首を振られた。
口をすすいだマユはタオルで口元を拭いてぽつりと言う。
「…ふたりで過ごしたい」
本当に可愛い。
俺の心を読むマユはじとっとした目で俺を見る。
「可愛いとか思ってんじゃねえよ」
「思うだろ」
「……」
背を向けて洗面所を出て行ってしまう。
マユは多分照れている。
でもしつこいと怒られるので俺もおとなしくマユの背を追った。
◇◆◇
「いや、マユ…朝食」
「昼と一緒に食べりゃいいじゃん」
マユが俺の膝にのって繰り返し唇を重ねてくる。
身体の奥が熱くなってくるようなキスに俺もマユも夢中になって何度も唇を寄せ合う。
「マユ…」
「要、いつになったら名前で呼んでくれんの?」
「………そのうち?」
「そう言い続けて一年半以上経ったけどな」
マユがちょっと不機嫌になる。
わかっているんだけど、長くマユと呼んでいた相手が恋人になったから呼び方を変えるってちょっと恥ずかしい。
俺とマユはもともと同じ居酒屋で働いている社員同士で、同い年というのもあり仲が良かった。
いつも行っているバーが偶然同じで、そこのクリスマスパーティーで初めて店外で会った。
完全に仕事抜きのプライベートで話してみて、なんだろう、表現が難しいけれど“この人だ”と思った。
それでバーからの帰り…と言っても始発電車だけれど、バーの最寄り駅の改札前で初めてのキスをした。
不思議だけれど、あの時、マユと付き合うのが自然なような感じがした。
後日、マユも同じように感じてくれていたと教えてもらい、やっぱりこの人だったんだと思った。
そしてふたりで暮らし始め、そこに半年前、ほなみが加わり今に至る。
「ん、あ…」
キスをしながらマユの腰を撫でるとぴく、と反応する。
そんな小さな反応にさえ身体は熱くなる。
困った事にマユに関してだけは俺のスイッチが壊れていてすぐに暴走してしまう。
マユの服を乱し、ベッドに横たわらせると俺が脱がせやすいようにマユは腰を浮かす。
「…っ」
そういう動きもどうしようもなく欲を燃やす。
マユの身体のあちこちを味わいながらマユのジーンズを脱がせる。
下着越しに昂ったものをなぞると甘い声が上がった。
下着も取り去り、蕾をほぐしていくとマユは頬を上気させて俺を見る。
ぞくぞくする。
「マユ…」
「んっ…ぁ」
俺がマユの蕾に昂りを宛がいゆっくり腰を進めるとマユは熱い吐息を零す。
“侑大”。
そう呼べたらマユも喜ぶのに、俺はなかなか呼べない。
悶々とする。
来月のマユの二十五歳の誕生日までにはこの照れくささを克服して侑大と呼びたい。
そして去年のマユの誕生日前も俺は同じ事を考えていた。
成長がない、ようだ。
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