僕らのカノン

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僕らのカノン

 結果的にコンクールは準優勝だった。とは言え、私の努力は入っていない。一日で思い切れるはずもなく、今回は演技参加となった。  無念といえば嘘になる。しかし、成長への一歩めに足を踏み入れた気もしている。  だって、彼女と出会った時の私は、変わろうとすらしていなかった。でも今は違う。だから、きっとこれからだ。  コンクールが終わり、歌と少し距離のある期間を過ごす。何度か旧校舎を覗いたが、存在などなかったかのように静かだった。  季節が一周する間に、少しでも成長していよう。決意に基づき発声練習に努めたが、やっぱり声は戻らなかった。  相変わらずな声帯が動くのは、彼女との曲を口ずさむ時だけだ。  遠くから微かに歌声が聞こえる。大人数の歌声が、一つの旋律を作り上げている。放課後練習中の生徒たちは、私が一人旧校舎にいるなんて思ってもいないだろう。  頼まれた備品回収のため、旧校舎に踏み入る。変化のない景色に、見入っていたら音楽室の前にいた。目的地と逆へ進んでしまい一人笑う。  思い出は、まだ懐かしくならない。自然と脳内で流れ出した旋律を、小さな声で追いかけた。  重なることなんて、ないと思っていたのに。  弾んだメロディが、私の声を追いかけてくる。驚いて止まりかけたが、勿体無さが勝り続けた。  声が記憶を鮮やかにしていく――私の後ろから響く声が。  最後の一音を聞き届け、振り向く。立っていたのは美しい少女だった。両脇に松葉杖が挟まれ、覗く肌には濃い痣がある。 「私、音楽室の精霊じゃなかったみたい!」 “なんでここに”  驚愕と共に訴えるが、少女は困った様子で首を傾げる。すかさず手帳を取り出し、視覚化した。 「私、人間だったらしくて、なんか目覚めたら病院だったの。お母さんに聞いた話じゃね、小学生の時事故に遭ったんだって! で、意識だけこっち来てたみたい! 私、貴方に会いたくてめちゃくちゃ勉強頑張ったんだよ!」  美しい声に、話に似つかないトーン。ああ、正真正銘のあの子だ。あの子がいる。 「そういや名前なんていうの?」  不意に尋ねられ、すぐに筆記した。今さら自己紹介なんて妙に擽ったい。  少女は満足げに文字を読み上げる。それから、私物らしきペンを出し、隣に筆記した。 「これ、私の名前。漢字難しいけど、良かったら覚えてね! よし、じゃあ再会の記念にもう一曲歌いますかー!」  テンポのいい話術に、笑みが溢れる。筆記された不器用な文字は、温かく私を擽った。  恐らく、まだまだ手帳は手放せない。けれど、手放す想像はできるようになってきた。一緒に歌い続ければ、より鮮明に描けるようになるだろう。  歌声が響き始めた。私と彼女の声は、今確かにここにある。
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