3年夏大会

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 鋭い打球が夏の空を切り裂いた。刹那、スタンドの大歓声は悲鳴へと変わる。  左中間真っ二つ。センターを守る俺とレフトの選手が同時に走り始める。しかし打球のスピード、各々の守備範囲、風向き等を総合的に考え瞬時に理解したことは、捕れるとしたらおそらく俺だけ、それも限りなく0に近い可能性だという事実だった。  絶望的状況下、景色がまるで走馬灯のようにゆっくり流れる。限りなく圧縮された時間の中、この状況を作った投手(張本人)・成田健吾の「センター!」というお気楽な声が辛うじて耳に届いた。  ふざけるな! 打たれたのにヘラヘラしやがって!  なんだその、「飛んだのがセンター(そこ)で良かった」とでも言いたげな、信じ切った声は。  勝手にもう勝った気でいやがって。試合はまだ終わってないんだぞ!  レフトもいつのまにか打球を追うのをやめた。笑っている。諦めたのではなく、託したのだ。  面倒押し付けやがって! 無責任過ぎるだろ!  俺は濁流のように押し寄せる怒りを内に秘め、がむしゃらに追いかける。追いかける。追いかける。打球は重力の影響を受け容赦なく加速する。きっと全ての観客が、俺が落下点に着くより打球が地面に着く方が早いと確信している。  当然だ。届かない方が普通な距離。捕れなかったとしても、おそらく誰も俺を責めないだろう。勝率が100%からせいぜい99%に下がるくらいだ。  それにもし奇跡的に捕れたとして、得られるものがあるとしたら、それは成田の完全試合達成という名誉だけ。飛び込むことによる怪我のリスクにはまるで見合わないはずだ。  わかっているのに、打球を追いかける足は止まらない。  落とすもんか、絶対に……!  渾身の力で地面を蹴り、左腕を打球に向け千切れんばかりに伸ばした。
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