3年夏大会

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「アウトォー!」  審判が高らかに宣言した。地鳴りのような大歓声が甲子園を揺らす。  完全試合達成。高校野球界に、成田健吾というスーパースターが誕生した瞬間だった。  球場の全ての人間が成田ただ1人を称える中、スポットの当たらない隅っこ。脇役はグラブの中のボールを見つめ、誰にも知られず拳を握った。  いつものように仲間と勝利の喜びを分かち合い、対戦チームへの礼を終える。校歌斉唱のために整列しながら、右隣の成田がボソリと言った。 「楠本、ありがとな」 「……勘違いするな、別にお前のためじゃない。アウトにできなければ試合は続く。初ヒットが出たことで相手が変に勢いづくかもしれないし、打たれた動揺で投球が乱れることだってある。お前がそんなに柔だとは思ってないけどな。  ただ1%でも負けの芽があるなら摘んでおきたいと思っただけだ」 「そんな早口で言わなくても分かってるよ」  成田の苦笑と同時に校歌が流れ始める。俺たちもまた噛み締めるように歌い出す。  甲子園で仲間と歌う校歌は何より格別な味がした。
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