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物心ついた時から俺はずっと主人公だった。
学業優秀、運動神経抜群、女子にモテモテ。同級生も先生も皆俺を褒めそやし、持て囃した。親もいつも近所の人に「鼻が高い」と言っているようだった。
小学4年の時に野球を始めて以来その風潮はさらに加速した。クラブチームでは入ってすぐにエースで4番になり、6年の時には全国優勝も果たした。キャプテンとしてインタビューに応えた時の写真は新聞に載り、今でも家のリビングに飾ってある。
中学の野球部でもエースで4番の座を守り続け、クラスでも相変わらず人の輪の中心に居た。俺に認められ近くにいることがチームメイトやクラスメイトにとってのステータスであり、楯突く者がいれば「嫉妬に駆られたダサい奴」のレッテルが貼られる。
俺の世界はいつも、俺を中心に回っていた。
高校はそこそこ野球が強い進学校を選んだ。せっかく優秀な頭脳を持っているのに野球しか能がない奴らと同じ高校に行くのは勿体ない。そこそこレベルの強さなら、俺一人でも甲子園ぐらいには連れて行ってやる。当時は本気でそう思っていた。
成田健吾は入学時、野球部の同期の中で全く目立つ存在ではなかった。身体が小さく、野球歴が浅いため技術も無い。俺と同じピッチャー志望だと知った時は鼻で笑った。そのくせ入部挨拶では一丁前に「このチームで甲子園に出場します!」なんて宣言していた。
1年の冬を終える頃、成田はいつのまにか俺の脅威となるまでに成長していた。
入学時は160センチもなかった身長は170を優に超え、伸び悩む俺をよそに球速も投球術もメキメキと成長していった。
俺は焦った。野球で言うところの主人公は、そのチームのエースだと俺は思っている。
俺はずっと主人公だった。こんなぽっと出にその座を奪われるわけにはいかない。脇役なんて、まっぴらごめんだ。
2年の春大会。俺は監督から背番号1を託された。ベンチ入りしただけで大喜びする隣の成田を見ながら、やっぱり主人公は俺なんだと思った。昔より野球の技術面でも学力面でも実力が近くなったせいか周囲からチヤホヤされることこそ減ったものの、この座だけはしっかりと守り抜くことができた。
結局春大会は県内強豪私立相手に惨敗を喫したが、俺の実力だけで言えば奴らにだって負けていなかったはずだ。それどころか進学校で勉強が忙しい分、本当は俺の方が凄いに違いない。
それなのに勝った強豪校の奴ばかりが注目され、俺は納得がいかない気分を味わった。
そして季節は巡り、2年の夏大会がやってきた。
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