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「お前らのプレーは最高だった。負けたのは全て俺の力不足だ。甲子園に連れて行ってやれず、申し訳ない」
ロッカールーム。深々と頭を下げた監督の目には涙が浮かんでいた。なぜ選手でもない、脇役も脇役の彼がそんなに悔しがれるのだろう。俺は純粋に疑問に思った。
「……すみませんでした。俺のせいで、先輩方の夏を終わらせてしまって」
「何言ってるんだ成田。お前が居なきゃ、きっともっと早く終わってたさ。感謝してるよ。甲子園出場の夢はお前たちの代で叶えてくれ」
相川先輩と成田が涙まみれで抱き合っている。俺がセンターに入ったことでスタメンを外された先輩だ。
試合にも出られなかった彼がなぜ感謝を口にするのだろう。やっぱり俺にはわからない。わからないけれど、なぜか再び胸が痛む。
「楠本」
「横尾、先輩」
レフトを守っていた横尾先輩。彼もまた目に大粒の涙を浮かべている。
「お前や成田のおかげで、俺たちも本気で甲子園という夢を見れた。ありがとう。夢は叶わなかったけど、お前らとやれて誇りに思うよ……なんて、ミスした俺が言うことじゃないけどさ」
違う。本当は先輩のミスにはならないはずだったんだ。何も言えない俺の手をがっしりと握り、先輩は何度も何度も上下に振る。
俺たちは皆で勝つためにやっているんだ。
成田の言葉が頭の中で反響し、そのたび胸の痛みが大きくなる。
この夏。主人公は成田で、俺や他の皆は脇役だった。だけど皆は成田と同じ目標のために戦っていて、俺だけが皆と違う景色を見ていた。そのことにようやく気付いた。
俺はいつだって主人公だった。だから脇役とは見ている景色が違ったはずだし、それをおかしいと疑ったこともなかった。
だけどこの時俺は初めて「寂しい」と、そう感じたような気がした。
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