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2年秋
3年生引退後、新チームの主将には成田が選ばれた。名実ともに奴がこのチームの顔だ。
まだ悔しさはある。が、意外と嫌な気持ちにはならなかった。
「先輩たちの思いも背負って、俺たちは必ず甲子園出場、いや、優勝をしよう!」
先輩たちの思い。俺たち。そんな臭い言葉が至って自然に胸に落ちてくる。
確実に、俺の中で何かが変わり始めていた。今はまだその何かの正体は分からないけれど、分かった時、俺は皆と同じ景色を見ているのかもしれない。
「楠本」
新チームの結成式が終わった後、急に成田が声をかけてきた。あの夏大会の日以来のことに思わず身構える。
「過酷な夏の大会を勝ち抜くことは、例えば大エースが1人いただけでは難しい。勝つためには投手力の充実が不可欠だ。楠本と俺が来年もベンチ入りしているかは分からないけど、そうなるように頑張ろうな。
俺たちがもっと力を付ければ、それがきっとチームのためになるから」
あの日のことなどなかったかのように話をし、成田はニカッと笑う。
今まで俺は自分のためにしか野球をやってこなかった。主人公は俺で、チームメイトは脇役。それが当たり前だと思っていた。だけど今、初めて「チームのため」という役割を提示され、不思議とこれまでないほどやる気が溢れ出ている自分に気が付く。
居ても立ってもいられず、俺は成田を誘いブルペンに入った。
結果、「今日は休めと言っただろ!」と監督からお叱りを受ける羽目になったのだが。
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