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drawn
見てしまった。
暗闇を切り開く小さなスマホの光は、それに見合わない、大きすぎる事実を反射させて私の目まで運んだ。
彼の字とは思えない筆圧で刻まれたそれは、私の今までの《常識》を大きく覆すものであり、同時に、私の胸を震わせた。
私は彼の部屋を抜け出し、廊下の棚を開け、あるフラットファイルに手を伸ばす。開いて1番上には、彼が幼稚園生のときに描いた将来の夢のイラストがあるはずだ。
「ぼくは、おにいちゃんになる」
クレヨンで描かれた彼の兄の似顔絵と拙い字が、脳裏に蘇る。
いつだっただろうか、“俺には兄ちゃんの背中が大きすぎる”“俺が兄ちゃんに敵うわけがない”と漏らしていたのは。
それが、今は違う。
机の上の進路調査プリントに、その決意が示されていた。
ずっと“兄ちゃんと同じ高校に行く”と言い張っていた海が、まさか兄を抜いて学区ナンバーワンの高校を志望するなんて。
私はファイルの表紙に手をかけた。
「な、い」
挟まっているわけでもなく、裏返しになっているわけでもなく。
あったはずの絵が、姿を消している。
残る油っぽい匂いが鼻腔を刺激する。
――海も、追いかけているだけでは物足りなくなっちゃったかな。
別のものが、鼻腔を強く刺した。
私は深夜、寝静まった彼を背に色んな色がネトネトに混ざりあった涙を流す。
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