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「見て、陽菜。桜が開花しているよ」
公園へ立ち寄り、ライトに照らされた桜を久隆が指さす。
久隆は毎日10時半のこの次元を周る魔法列車に乗って、元王族としての任務をこなし16時半に帰ってくる。
「本当だ。去年は私、見られなかったからなぁ…」
去年の今頃は、異次元で奮闘していた。
「僕も、全然ここに来る余裕がなかったからね。ひとりで見てつまらないし」
ふたりベンチへ座り、視線を合わせ「今年は一緒だね」とほほ笑んだ。
「今年だけでなく、来年も、再来年も…ずっと一緒」
私達はしばらくほぼ蕾の桜を堪能した後、
「帰ろう」「うん、帰ろう」と手をつないで歩き出した。
久隆と私の爪にはお揃いの桜がモチーフのネイル。
毎回久隆のネイルは、久隆へのありったけの気持ちと、怪我無く無事に帰ってこられるように念を込めて施術する。
もう二度と、離れ離れになることの無いように。
部屋に着き「お疲れ様」と言って今日も仕事で疲れ切っている私を、早速久隆は優しくキスで癒してくれる。
久隆は私の耳を甘噛みした後、
「明日は定休日だろ。今夜は…くったくたに疲れるまでめいっぱい癒してやるから、覚悟しろよ」とイジワルな顔をする。
どっちやねん。
もう何が言いたいのか…よくわかっています。
明日は10時の魔法列車でエミリーとアシャード王子が遊びに来る予定。
それまでに起きて支度をしなくては。
お願いだから久隆、エミリーの前でその黒久隆は出さないでね。
私は「今日の疲れも手強いぞ。ちょっとやそっとじゃ癒されないから、覚悟してね」と久隆の唇に軽くキスをした。
(おしまい)
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