45人が本棚に入れています
本棚に追加
黒にハマる
「お先に失礼します!」
私は勤務先のネイルサロン「シャーム」の裏口から、近くの公園へ急ぐ。
今日も数人ではあるがお客様の笑顔を見ることが出来、大満足だ。
村上陽菜、25歳。独身。職業ネイリスト。
ただいま、超イケメンの彼氏立川久隆と同棲中。
思いっきりリア充しています。
公園のベンチに座って久隆が私を待っていてくれている。
「お待たせ、久隆」
私は久隆のそばに駆け寄った。
「お疲れ様、陽菜。見て。桜が開花しているよ」
久隆の視線の先を見ると、ベンチそばの桜の木の蕾の中に3輪ほどひっそりと開花していた。
暗闇の中、ほとんどが蕾でも桜色が照明に照らされて幻想的だ。
「本当だ。昨日は咲いていなかったの?」
「うーん、どうだったかな」
久隆はベンチから腰をあげ、私の手を取る。
「帰ろう」
優しい笑顔を向け、久隆はゆっくり歩き出す。
私はいつもこの笑顔に癒される。
「あ、陽菜のネイル、春っぽいね」
「そう、いいでしょ」
「うん。陽菜の白いキレイな指によく似合う」
そう言って久隆は、握ったほうの私の手の甲にキスをする。
「…ありがと」
久隆は私の変化によく気がつき、いつも言って欲しい事を言ってくれる。
だけど、
「久隆は?お仕事どうだったの?」と私が聞いても
「うん、いつも通りだよ」と曖昧に答えるだけ。
そう、私は久隆の事をほとんど知らない。
名前、男性であること、26歳、何らかの仕事を昼間にしているとしか。
出会って3ヶ月、同棲生活はもうすぐ1か月も経とうとしているのに。
最初のコメントを投稿しよう!