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「ちょっと、どこで引っかけてきたのよ、あのイケメン!」
引っかけてきたとは失礼な。
朝7時に予約を入れたとの報告を激怒していたオーナーも、立川さんが来店すると一気にご機嫌になった。
私はテーブル越しに立川様と向かい合わせになる。
「朝早くにお越しいただいて申し訳ございません」
記入して頂いたカウンセリングシートの個人情報欄は無記入が目立つ。
「いえいえ、お忙しい時期にこちらこそ申し訳ないです」
早速ハンドケアから始めさせてもらう。
立川さんの手は大きくてもスラッとした細く形の良い美しい指。
今まで何人か男性の施術をさせてもらったけど、立川さんの手はピカイチだ。
イケメンは手もイケメンなのですか?
逆に言えば、スポーツや力仕事をした事がないような手と言えそうですが…。
「この時間にご来店していただいて、立川様の今日のご予定は大丈夫でしたか?」
デザイン案のデジタルカタログを見てもらいながらハンドケアを施す。
平日の7時からおよそ2時間半。
仕事に行かなくていいのかと聞きたかったが、ネイルが出来るのであれば夜のお仕事かもしれないと思い、言葉を選ぶ。
こんなイケメンがいるお店なら……一度は行ってみたいと思ってしまった。
いや、それ絶対ハマってしまうでしょ。
そして今まで貯めた独立開業資金を散財してしまうんだ。
「大丈夫ですよ、僕フリーランスなので」
なるほど、フリーランスね。上手なかわし方だ。
これ以上突っ込むのはNGだと判断する。
「やはり村上さんのデザインと同じもので。そこにデザイン文字は入れられますか?」
「文字?手書きだとオプションになってしまいますが、よろしいですか?」
「はい。右手の人差し指だけにお願いします」
用意した紙にボールペンでその文字を書いてもらう。
サラサラ、と書いたその文字は、波紋とアルファベットが融合したような文字で、Kにも耳にも見えなくも…ない。
「文字は白で、ここの部分だけ赤で」と小さなひし形の箇所をさす。
……痛い人かな?
いえいえ、お客様が満足していただけるのであればどんなデザインでもさせていただきますよ。
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