シャレコウベダケ、出現。白い鬼が破顔する

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    ※  気付いた時には密閉された空間の中にいた。淀んだ空気の中に含まれるムンとした臭いが不快で目を覚ました。一体ここはどこなのか。視界がぼやけて分からない。長い間眠っていたようだ。その間にどこかへ連れて来られたようだ。  頭がはっきりして来ると一人で車の後部座席で横になっていることに気付いた。重たい体を動かすため、上半身を持ち上げようと右手を動かした。後頭部に地獄のような痛みが走った。起き上がることを諦めた。体を動かすと痛い。痛みを感じることが怖くて何もできなくなった。  視線を動かし窓の外を確認した。横になっていたため、真っ黒い空しか見えなかった。  ここはどこか。成子が目の前に現れた瞬間に不思議な感覚に襲われたことを思い出した。成子が待ち伏せしていたことを思い出した。だが、どうして自宅の場所を知っていたのか。どうして自分が外出していると知っていて帰る時間も知っていたのか。意識が明瞭になると同時に疑問が次々と沸き出た。  電柱の陰に何時間もいると近隣住民から怪しまれる。自分が帰って来るタイミングを知っていたはずだ。そもそも出かけていることを、何故知っていたのか。 「まさか」  寝ながら絶望した。清江が今日呼び出したのは成子に頼まれたからではないのか。彼女の様子から、何か用があった訳ではなさそうだった。きっと由樹を呼び出すこと自体が目的だったのだろう。自信なさそうな清江の顔を思い出して腹が立った。あんな女に騙されるなんて。  痛む後頭部を手で抑えながらゆるゆる慎重に体を起こした。後部座席に座って窓の外を確認した。衝撃だった。場所はどこかの山か森の中。外には成子と明美、アンジェラ、清江が立っていた。クヌギの木があり、そこに一人の男が磔のようにされていた。  両腕を布か何かで縛られ木の枝から吊り下げられていた。高さは丁度男が爪先立ちをして地面に届くくらいだ。両足首も布で縛り付けられて動かせなくなっていた。あの男が明美の旦那の浩司だろう、とすぐに理解できた。遠くからでも、胸板の厚い体の持ち主だと分かった。  窓の外から視線を逸らした。どうすべきか。金輪際関わらないと決めた殺人計画に巻き込まれた。逃げ出したいが、外には四人が立っている。しかもここがどこなのか分からない。スマホも取られたらしく、ジーンズのポケットの中に入っている感触がない。両足を足首のところで縛られていたことが分かった。  どうやって逃げるべきか考えを巡らせていると、 「由樹さん」  と、いきなり外から名前を呼ばれた。
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