シャレコウベダケ、出現。白い鬼が破顔する

6/7
前へ
/164ページ
次へ
「ほおら。ポコチンだぞお。美味しいだろお。美味しいって言えよ」  どうやらディルドを口に入れているようだ。どうして成子がそんなことをやり始めたのかは分からない。 「実はこのポコチンには細工がしてあるんだ。私の夫が作ってくれたの」  と、言うと一旦静寂が訪れた。全員が一心に成子と浩司を観察しているようだ。  ウッガー、という声で浩司が叫び出した。彼は半透明の液体を口から吐き出した。何があったのだろうか。 「そう、このポコチンに付いているボタンを押すと濃度三十パーセント以上のアンモニア水が出て来るんだあ」  彼は成子を睨み付けながら足元に嘔吐した。成子は何のためにこんなことをしたのか、由樹には理解できなかった。 「さ、もうそろそろ。トドメを刺しましょうか」  成子の発言を機に三人の男が動き始めた。男たちは浩司を囲んだ。何をしているのか由樹からは見えない。 「アンジェラさん、清江さん。その辺に穴を掘って下さい」  成子の言葉に従ったアンジェラと清江はスコップを持って浩司が吊るされている木の近くに早歩きで向かった。土にスコップの先端を突き刺して大きな穴を作り始めた。何をする気なのか段々分かって来た。恐らく浩司を穴の中に生き埋めにでもするのだろう。 「さあ、由樹さん。浩司さんを木から下ろしてあげて下さい。男たちと協力して、浩司さんを穴に埋めてあげて下さい。その時は、頭が地面から生えているように見えるように、首から上だけ土を被せないようにして下さい」  由樹は動かなかった。意地でも動かないと決めていた。成子の異様な要求を聞いて余計に恐怖を覚えた。どうして頭だけ出すのだろうか。 「早く」  成子の口から唾と一緒に茶色く濁ったような怒声が浴びせられた。成子は片手にスタンガンを持って由樹の首筋に電極を当て、 「良いですか。由樹さん。貴方、自分だけが洗練潔白な優等生だとでも思っているのですか。だとしたら、貴方は本物のクズでしょうね。だって他の皆さんがこんなに頑張っているのに、優等生気取りで何もせずに静観しようとしているのですから。  でもね由樹さん、これだけは覚えておいて。自分で手を下せない人間が最悪なのよ。他人の手柄を奪う人。人を都合の良いように動かす人。貴方、今そういう人間に成り下がっていますよ。良いのですか」  成子の脅しを聞いても、由樹は動かないでいると首筋に強烈な痛みを覚えた。熱せられた何千本もの針が皮膚に突き刺さったような痛みだ。成子を見ると、スタンガンの電極部分を由樹に向けたまま冷たい声を発した。 「お前も浩司と同じ穴に入りたいのか」  死だけは避けなければならない。五歳の彩花を育てるため、今死ぬことは決して許されない。こうなったら仕方がない。死ぬことだけは御免だ。浩司に近付いた。明美もノロノロと近付いて来た。手には何か握っていた。金色に光る液体のようなものが入った瓶だった。  明美から視線を移し、男たちに囲まれている浩司を見た。彼は細い一重の目で睨んでくる。だが由樹は成子の逆鱗に触れることを避けるため、浩司の意思を無視した。木の枝に縛り付けられている布に手をかけた。  布を解き両腕が自由になった浩司は地面にそのまま倒れた。全身汗まみれだったため、季節外れの半袖シャツから剥き出しになった腕に大量の土が付着した。  成子の指示で浩司を清江とアンジェラが作った穴の中に座らせた。明美が腕を、由樹が足を持って穴の中に入れた。再び両手首に布を巻いて自由を奪った。  それから由樹は茫然として全員の仕事を眺めていた。小さい虫が鳴く声が森の中に響いている。本来ならば人もいなく森閑として感興をそそるような場所なのだろうが、既に死臭が充満している不快な場所と化していた。 「さあ、明美さん。人生の転機がやって参りました」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加