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白い壁と緑色の屋根の獄に囚われ、、
※
「ウチに着きました」
成子に言われて窓から外を見た。車は交通量の少ない田舎道に路駐しているようだ。暗闇の中で、うっすらと乾いた畑が右手に見えた。左手には瓦屋根の二階建ての立派な家々が細い木々を背にして建っていた。それぞれの家の窓からは家庭的な明かりが洩れている。
「さ、降りましょうか」
成子が扉を開けて外に出た。他の四人の女と三人の半グレの男は、彼女に続いて降車した。外灯すらもないところだ。彼女はこんな地味な場所に住んでいるのか。
清江が由樹の傍に立った。何も言って来ず、由樹の顔すら見ようとしない。騙して悪かったと思わないのだろうか。
乾いた風が清江の白髪交じりのケアできていなくて汚い短髪を乱す。細かい枯草が乱れた髪に引っ付いた。
全員で畑を右手に歩いていると、小さな二階建てのアパートが現れた。白い壁に緑色の屋根で、壁の汚れ具合から築五十年くらい経っていそうだ。人間よりも幽霊の方が沢山住んでいそうなところだ。
成子は一階の右から二番目の部屋の扉を開けた。
「さあ、皆さん入って下さい。明美さん、清江さん、アンジェラさん以外は初めて来ますよね。狭いところで悪いですけど、ゆっくりして行って下さい」
三人は成子の自宅にて過ごしていたようだ。驚きだった。清江はやはり成子に取り込まれている。その期間に何が行われていたのか、由樹には想像できなかったが何だか嫌な感じがした。
小さい玄関の三和土でスニーカーを脱いで奥へと続く廊下に足を踏み入れた。ベタっとして靴下が廊下のフローリングに引っ付く。家の中は物が少なく殺風景だ。生活感がなくて煩雑とした印象は受けないが、掃除は全くできていないようだ。廊下の壁は全て段ボールで覆われて、プチプチが段ボールの上に被さっていた。何のためにこんなことをしているのか。不気味だ。
廊下を渡り、奥の扉を開けると居間になっていた。居間の壁も全て、段ボールとプチプチで覆われている。
「今日はご馳走にしましょう。貴方、お寿司の出前を取ってくれない?」
部屋の中に全員が入ると、成子が赤ん坊のような童顔の男に出前をするように頼んだ。どうやら彼が成子の旦那のようだ。明るいところで見ると、彼は少年顔のイケメンに見えなくもなかった。彼女は家の中でも細い縁の赤い眼鏡をかけて、ワイヤレスイヤホンを片耳に付けたままだ。
旦那は彼女に言われた通り電話をかけ始めた。どこも仲が悪そうに見えなかった。彼女が旦那デスノートに投稿していたことが不思議で仕方なかった。
成子の旦那が電話をしていると、ドスンという何かが倒れた音が聞こえた。何が起きたのかと思って見ると、明美が居間の床に倒れていた。息も荒くなって過呼吸のような発作を起こしていた。自分の旦那を殺したことによって精神が摩耗して立つ気力すらもなくなってしまったのだろうか。よく観察して見ると彼女は涙を流していた。
「何寝てんの」
倒れた明美を見下ろした成子が聞いたことのないような重たく冷えきった声を出した。ゾッとした。今まで成子は猫を被っていたが本性を現したような気がした。
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