白い壁と緑色の屋根の獄に囚われ、、

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   ※ 成子  みんなで寿司を食べている光景を見て思う。夫は今、自分の働きを賞讃しているのだろうか。実際に彼が自分をどう評価してくれているのか分からない。分からないから不安で仕方がない。もし少しでも認めてくれるのであれば優しい言葉を聞かせてほしい。あの時のように。 「成子はこの女のように馬鹿じゃないから好きだな」  初めて夫の部屋に遊びに行った際にサヤカとユウコを指差しながら言ってくれた言葉だ。ボロボログチャグチャになった体を晒しながらお互いに傷付けあっている二人を見ながら言われ、より自分が優れているように思えた。サヤカがユウコの顔の中心を火で炙っていた。自分はこんな愚かな行動をしない。 「お前たちは成子のようになりたければ、僕への気持ちを行動で示してほしい」  と、夫が言った途端、二人の女は野太い声で叫び出してお互いの顔面を拳で殴り合った。気持ちの示し方がお互いを傷つけることしか知らないようだ。  だが一方で初めて見た強烈な暴力によって成子は完全に固まった。夫がどんな人物なのか分からなくなってもいた。本当にこの男性と結婚して良いのか疑心が沸いて出た。成子の心配する気持ちを察してくれたようで、夫は打って変わって優しい言葉をかけてくれた。 「成子さん、貴方は幸せですね。この女たちを見て下さい。彼女たちは僕を得るために悲惨な目に遭っているのです。ですが、貴方はこんな野蛮な行動を取らなくても僕と結婚できるのです」  成子は隣に立っていた夫の顔を見上げて尋ねた。 「本当に? 本当に、私と結婚してくれるの。この女たちじゃなくて私なのね。本当なのよね」  あの時、確かに言ってくれた。本当だと。  この時、幼少期の自分を振り返った。あんなに無様な子供だった女の子がこんなイケメンと結婚できるだなんて、と感慨深くなった。  あの時のように褒めてほしい。一人の女として認めてほしい。彼の声を待つ。だが、聞こえて来る音は明美の啜り泣きの声だけだ。
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