犠牲から犠牲へ、魂からの繋がり

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犠牲から犠牲へ、魂からの繋がり

 成子の自宅に来てから一週間が経った。彼女は由樹たちを帰してくれなかった。貴方は殺人犯なのよ、と脅されて帰宅を許されなかった。玄関にも男三人がローテーションで見張りに立っていた。旦那以外の男は一体何者なのかも明らかになっていない。    スマホを盗られたまま返してもらえないため、カレンダーを確認できない。何回目の夜に日にちを数えることしかできなかった。  一週間の中で事件が起きた。明美が旦那にハチミツ牛乳を飲ませに行った際に逃亡した。  逃げて当然だと思った。明美は食事もまともに取らせてもらえず、睡眠もまともに取れなかった。由樹が起きている時は常に廊下で正座していた。顔は白紙のように色を失い、骸骨が蹲っているように見えた。生気を全く感じられなかった。このままでは栄養失調で死にそうだった。そんな状態で、ハチミツ牛乳を飲ませて徐々に殺すために死にかけの旦那の元に行っていた。逃げて当然だろう。  だが、結果的に三日で連れ戻されることになった。三日前、由樹とアンジェラと成子の旦那の三人で、明美を探して来るように成子から命じられた。 「あの山の付近には駅やバス停などはありませんので、遠くには逃げられていないのです。私は明美さんを信用していないので、GPSチップを服の背中に付けておきました。それを頼りに連れ戻して来て下さい」  成子の旦那の運転で明美を捜索することになった。由樹はアンジェラと並んで後部座席に座った。数日ぶりに成子の監視下から逃れることになった。成子の旦那はスマホを操作してブルートゥースで車のスピーカーに接続して、爆音で昭和歌謡曲を流し始めた。由樹は世代ではないので、誰の何の曲か分からなかった。  車は発進して田舎道を進み始めた。音楽のボリュームが大きいため、アンジェラとこっそり自由に会話ができそうだった。旦那は成子と違い、そこまで監視が厳しくなかった。何を喋っているのか聞かれさえしなければ、会話をしていても問題ないだろうと見た。 「ねえ、アンジェラさん。このままこの計画に参加し続けるんですか」  由樹はアンジェラの方に顔を近付けて尋ねてみることにした。アンジェラは急にハッとした顔になって、 「もう嫌です。嫌だ。もう人殺しなんて嫌です」  と、突然静かに泣き出した。帰りたくないのか、と質問されて正気に戻ったのかもしれない。ずっと口に出すことを我慢していた本当の気持ちなのだろう。運転席にいる旦那に気付かれないように、彼女は顔を抑えて隠した。  アンジェラは殺人を実行するまで、深く考えていなかったのかもしれない。まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。 「私だってそうよ」  由樹はアンジェラを仲間に加えて何とか成子のアパートから脱走できないかどうか考え始めた。だが、アンジェラは店を三日連続で無断欠勤したことを相当気にしているようなことを言い始めた。そこじゃないだろ、と由樹は若干呆れた。だが、彼女以外は仲間に引き入れられそうにない。頼りないが一人よりはマシだ。 「とりあえずさ、私もう次の殺しには参加したくない」
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