犠牲から犠牲へ、魂からの繋がり

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 隣からか細い声が洩れて来る。彼女は両手を顔から離して前を向いていた。  車の窓から月の光が差して来て、アンジェラの横顔を明るく照らす。くすみがなく比較的綺麗な頬の肌を眺めながら考え事をした。どうすれば殺害を止めることができるか。  今回、明美が逃亡した理由には、もう自分の旦那を十分痛めつけ終えたという要因もあるだろう。では、今も計画を継続したいと考えている者は成子と清江だけになる。二人になった今、行動に移すことは難しいのではないかと考えた。 「それに、偽装結婚相手のツヨシと離婚することになったのです」  アンジェラは顔を由樹の耳元に近付けて囁くように言った。 「これで大輔君と一緒になれるんです」 「おめでとう、どうして急に」  言葉とは裏腹に、何だか気に障った。アンジェラが殺害という経路を辿ることなく旦那と別れられたのが気に入らない。自分は脱走できたとしても、これからも隆広と一緒に暮らさないといけない。アンジェラだけ狡いように感じた。 「うん。何かね、ツヨシはですね、またフィリピンに行って違う女の子を連れて来るのです。それで次はその子と結婚するから」  また新しいフィリピン人の女の子と結婚するのか。そのためにアンジェラとは離婚をしないといけない。 「でも一人の男が、そんな何人も結婚するのはどうしてなの」  由樹にはそこが疑問だった。久々のまともな会話だったため、自然と長引かそうとして質問が口から出た。 「戸籍に傷が付くようなものって言ってたのです。それが理由で、全然やりたい人なんていないんだって。しかも偽装結婚相手になっても年間百万も貰えないみたいです。悲しいね」 「そっか、そのツヨシっていう男を元締めみたいな親玉の人たちが、結婚相手として使い回しにしているってことか」 「多分そういうことです」 「そしたらさ、でもアンジェラも日本にいる理由がなくなったことになって、ビザが無効になるんじゃないの」 「ううん、大丈夫です。半年間は日本にいれるって大輔君が教えてくれたの。それまでに大輔君と結婚できれば大丈夫です」 「また男と一緒に住むの」  由樹は心配と嘲りの気持ちを持っていた。 「うん、大輔君は優しいから。それにタンテーの仕事しているのです。カッコいいですよね」 「でも、今まで一緒に住んでたよね、そのツヨシっていう人と。また同じような生活に戻るかもしれないんだよ」 「そんなことないです。だって今までは部屋の物全部ツヨシのものだったの。冷蔵庫だって使えない。そんな生活もう嫌です」  アンジェラの生活が察せられた。一人の男の部屋に居候のような形で寝起きをしているようだ。しかも居室は一つしかない部屋なのだろう。出稼ぎの身は想像以上に辛いようだ。
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