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アンジェラはポケットから何か取り出した。左手にはラベンダー色のハンカチが握られていた。正方形に綺麗に畳まれて不自然に厚みがある。彼女曰く恋人の大輔がくれた物だ。
「このハンカチですね。これは大輔君がツヨシとの生活を心配して作ってくれたの。これまでツヨシと一緒に住んでいて、他に男と連絡取れないように私のスマホは家では没収されちゃう。
だからこういう風に作ってくれた。でも、今回も役にたったのです。成子さんにスマホは取られたけど、これは取られなかった。成子さん、渋谷で喋ったこと忘れているみたい。聞いてなかっただけかも。あの人耳悪そうだし」
不覚にもアンジェラの愛され方が羨ましくなった。他人に羨望を抱く自分自身に怒りを覚えた。意識的に苛立ちを消し去り冷静になって、元の話題に戻した。
「まあ、いいや。でもそしたら、もうこの計画から去るって決めたのね」
「うん。私は今までと同じように働いて、フィリピンにお金送る」
健気で芯が強いのか本気の馬鹿なのか。由樹と育った環境と大きく異なるようだ。アンジェラはラベンダー色のハンカチを大事そうに眺めていたが、
「でも、怖い」
と、急に弱気になった。
「ん、何が」
アンジェラは再び泣きだしそうになっていた。
「成子さんが怖い。謝らないといけないことがあるんです。由樹さんの頭殴ったの私。ごめん。成子さんに逆らえなかったです。怖い男の人たち連れて私を脅すからです」
成子は由樹を連れ去るために清江だけではなく、アンジェラも使っていたようだ。清江に外に呼び出すように指示し、戻って来るタイミングを逆算し、アンジェラに殴らせたようだ。
「とんだヤバいヤツだな」
「ごめんなさい」
成子のことを言ったのだが、アンジェラは自分が言われたと勘違いしたようだ。
「ああ、成子のことだよ。あの人はどうなっているんだ」
浩司を殺した時の光景を思い出した。彼は今も土の中から頭だけを出して腐敗しているのだろう。どこからこんなやり方を知ったのか。普通に生きていたら絶対にあんな残酷な殺人方法なんて知ることはない。
「でね、清江さんも由樹さんに謝りたいらしくてさ、今度成子さんがいない時に三人で喋りたいです。由樹さんも清江さんに謝られたら許してあげてほしいです」
うん、と一応頷いて見せた。
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