交錯する女たちの負の感情、底の底へ

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「はあ。由樹さんの唇って、ホントに柔らかい。どうしてそんなに美人なの。私も由樹さんみたいな見た目で生まれて来たかったわ」  成子は優しく由樹の顔を撫でた。満更でもなくなっていた。夜、眠気が良い感じに由樹の思考を鈍化させてくれる。逃げ出したい気を抱かせなくさせる。  成子が自分だけに向き合ってくれて可愛がってくれる。夜一緒に眠るために生きているような気にもなった。思わず成子の胸に顔を埋めた。マシュマロのように柔らかかった。 「もお、甘えん坊さんね」  成子は自らの乳房を由樹の前に晒す。とても大きな乳房にコーヒー味の飴みたいな乳輪がポロンと付いていた。舌を這わしてみた。不思議と甘い味がした。本当に甘いわけではないはずだが、脳が勝手にリラックスして目の前の状況を良いものと捉えさせている。  成子に甘えることで、今まで気を張って生きて来たことを自覚できた。彩花の教育に熱心になり、美貌に似合うような幸せな生活を送ることに腐心していた気がした。 「舐めるの上手ね、由樹さん」  彼女の大きい体に覆い被された。彼女の膨れた腹が由樹の顔を覆い尽くす。窒息しそうになって何も言うことができない。だが柔らか過ぎて苦しくない。 「清江さんの旦那さんを明美さんに捕まえさせに行きましょう。そして清江さんと一緒に屠ってしまいましょう」  急に凄みのある声で提案して来た。驚いたが、由樹は口を腹で塞がれて何も反応できなかった。 「とても良い考えだと思うの。清江さんの旦那さんを浩司さんの時のように殺して、ハチミツ牛乳を飲ませるのと一緒に清江さんの肉で作った団子を食べさせようと思うの。だって清江さんは旦那からの愛が感じられなくて旦那デスノートに書き込みしてたんでしょ。  じゃあ、最期くらいは夫婦お互いに愛情を示し合ってもらわないと。大丈夫よ、由樹さん。貴方ならできるわ。肉団子の作り方なら分かるから。北九州である事件があってね、殺した人の肉を解体してからミキサーとかで細かくして魚の餌にするために肉団子にした例があるの。  だから大丈夫。心配なんてしなくて良いのよ」  腹の肉に顔を圧迫されながら成子の言葉を聞いていると、段々眠りに落ちて行った。このままここにいては駄目だと分かっている。今、意識が沈んで行くように、逃げなければいけないという自我が溶け出している。どうすれば良いのだろうか。どこかのタイミングで逃げ出さなければ、いつかは明美や清江のように虐げられる立場になるだろう。何となく分かっているが、動けない。
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