交錯する女たちの負の感情、底の底へ

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「実はうちの旦那、借金していたの」  拍子抜けした。何か突飛な告白があるのかと思っていた。ただ借金があるということだ。借金など驚くに値しない。 「しかも利息が膨らんで、今は四百万にまで、なっているみたいなの。しかも、その原因が投資で失敗したとか、私にはよく分からないこと言っててさ」  話を聞く限り清江の旦那は株の値打ちが下がり始めた際に、素早く損切りできなかったようだ。そのために莫大な損失が出て、その損を挽回するために再び別の株に逃げるように投資して同じ過ちを繰り返したようだ。  泥沼に嵌って行って消費者金融だけでなく、町金からも借りていたようだ。ありがちな話だが、清江のような間抜けな女の旦那なのだから相当鈍臭いのだろうと見た。  家族の気持ちと物事の流れを読めない鈍磨は株なんかに手を出すべきではない。冷え切った家庭の父親が人の考えていることなんか読める訳がないので全く向いていない。 「じゃあ、旦那に働いてもらわないと。金融屋の取り立てがキツイなら、体を売ってどこか遠くの過酷な現場にでも行かせれば良いじゃないの。なおさら殺すべきじゃないね」  この世には誰もやりたがらない高額の給与が支払われる仕事がある。死体の清掃の仕事や原発清掃員がその類だ。 「そうなんだけどさ、保険金、があるじゃないの」  人は楽な方に流れて行く、と由樹は実感した。 「まあね、四百万くらいなら返せるでしょうけど」 「それにさ、息子の借金もあったの」 「え、息子さんは家から出て行ったんじゃないの」  清江の息子は高校を卒業してすぐに家から出て行ったという話だった。 「うん、息子は、いないんだけどさ。代わりに、闇金の取り立てが、ウチに来たの」  呆れた。清江の家族は三人揃って頭が悪い。行動力のある馬鹿ほど厄介な者はいない。 「それで、旦那さんの死亡保険で、息子さんの借金も返しちゃおうって言いたいの」 清江は馬鹿みたいに頭を横に振った。 「そんなんじゃ、とても足らないの」 「幾らだったの、息子さんの方は」 「一千万。元々幾ら借りていたのか知らないけどさ。闇金は十日三割利息、で貸し付けていたみたいで。それで息子は契約の際に、実家の住所を記入しちゃった、みたいで」  もう聞いていられなかった。聞いていて気分が悪くなる。 「それでね、続きが、あるんだけどさ。その話を、成子さんに話す機会が、たまたまあって、息子の方の借金は、返済してくれたの」  成子が何の仕事をしてお金を持っているのか、三人誰も知らないようだ。 「でも、成子さんは、全額返済してくれたの。私、その時言われたの。計画を最後まで、行ってくれる約束、ですよって」 「恐喝じゃないの、それ」 「そうかもしれないけど、実際、助かったから。それで、残りの旦那の四百万は、保険金で返そうってことになって」  成子の思い通りに清江は動いている。成子の傀儡となっている。 「貴方は納得しているの? 旦那さんを殺害することに対して」
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