自らの手で、悪意なく人を殺す

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 翌朝、由樹は浴室の中で清江を浴槽に沈めて殺害する。清江の旦那を埋めに行った日、アンジェラは清江を殺害できなかったようだ。成子が戻って来た時に清江が眠っている横でアンジェラは浴室のタイル張りの床にうずくまって、ただ泣いているだけだった。 「明美さん、アンジェラさんの体たらく、どう思いますか」  明美はもうすっかり人らしさを失って何事にも無感動になっていた。最近の彼女はパチンコ売春で金を稼がされている、とアンジェラから聞いた。体を売る仕事を他人から強制されてやる以上に精神的にしんどいことはないだろう。 「ええ、もう死んでしまった方が良いと思います」 「そうですか。アンジェラさんも殺しますか」  はい、と明美が答えた瞬間、ひしゃげるような音が聞こえた。明美を見ると彼女は血を流している頭を抱えてうつ伏せになって倒れていた。彼女の傍には成子の旦那がゴルフクラブを持っていた。見たことのあるドライバーだ。浩司殺しの際に、明美が旦那の顔を殴打したゴルフクラブだろう。 「そんな酷いこと言わないであげて下さい。明美さん、もう忘れたのですか。貴方も殺人者であるということを。自分の旦那を殺したんですよ。死の重みというのをそこで学ばなかったのですか」  床に這いつくばる明美に対して成子は言葉をかけ続ける。 「浩司さんの死に様を見たんでしょ。最期はどんな姿になっていたんですか。よく思い出して下さい。  頭だけ地面から出して皮膚がドロドロに溶けて何もかもが崩れ落ちていたんですよね。それが死というものを体現しているのですよ。あれほど悲惨な目に仲間であるアンジェラさんを陥れようとしているのですか。  よく考えてから発言して下さいね。こういう計画には仲間内での団結力が何よりも大事であるということを覚えといて下さい。組織の結び付きに欠陥があれば、上手くいくはずのものも上手くいかなくなりますから」  明美は成子の言葉に対して反発することなく、その通りだと思いますと何度も言って同意を示していた。何も考えていないで言葉を発していることは明らかだった。普通なら、どうして団結力が必要な時に自分を攻撃して来るのか疑問に感じるはずだ。  だが明美の対応に疑問を抱いていた由樹も、結局は成子に反抗できずに清江の殺害を行った。
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