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由樹と旦那デスノート
〈信じられません。ウチにいるクソが娘の体にいやらしいことをしていたみたいなんです。
こんなクソと結婚しなければ良かった。後悔してもし切れません。ああ、早く死ね死ね死ね死ね。何であんなヤツが生きているのでしょうか。私にも嫌われ、娘にも嫌われ、誰に望まれて心臓を動かしているのでしょうか。
義父母でしょうか。ならば義父母も死んでくれ。あの不味くてドロドロした料理もどきを容器に入れて家に上がり込んで来る糞ババアなんて死んでも問題なし。ダンナ一家、全員即死でお願いします、死神様〉
由樹は旦那デスノートに書いた投稿の内容を見返した。多くの人たちが共感してくれるだろう。自宅のソファに寝転がりながらスマホで旦那デスノートのサイトを見ていた。このサイトでは、夫婦生活に不満を持つ女性が旦那の悪口を書いてストレスを発散させる場だ。
だが、由樹の投稿の内容は殆どが嘘だ。夫の隆広が五歳の娘の彩花に悪戯などしたことはない。ただ彼に腹が立ったため、腹癒せのために書いただけだ。センセーショナルな内容の嘘を敢えて書いた。その方が、多くの人が共感してくれるはずだからだ。実際は教育の意見の違いで夫に苛ついていただけだ。
教育に対する考え方が違うことは十分理解しているつもりだった。だが、実際に自分が良くないと思っていることを、隆広が娘にしているところを見ると腹が立って我慢できなくなる。
つい昨日のことだ。由樹が高校の同級生と食事会から帰宅した時、隆広のスマホを使って彩花がユーチューブを観ていた。娘はしまじろうが好きで隆広にスマホを貸してくれと言っては、しょっちゅう同じような動画を観ていた。由樹は娘がスマホばかりに熱中することを憂慮して夫に貸さないように常に言って来た。
だが隆広は彩花がスマホを使っていることに何も心配する様子もなく、動画に熱中する娘を見ているだけだった。
「てめえ、またスマホ触らせているのかよ」
由樹は隆広の横顔に向かって怒鳴った。
「仕方ないだろ。貸してくれって騒ぐんだもの。あまり大声で騒がれるとまた上の階のオッサンが言って来るじゃん」
口答えする夫の頬を殴った。頬骨が当たって中指の第二関節が痛かった。
「何だよ、また暴力かよ」
隆広は苛立ちを必死に抑えているようだ。なるべく落ち着いた声を出そうと意識して、弱々しい態度になっていた。気弱な様子の彼に益々腹が立つ。軟弱なオッサンはデカいミミズよりも気色悪い。
「またって言うな。お前がちゃんとしないから、何度も殴られるんだろ。一人前に文句言うなよ」
もう一度彼の頬を殴った。全く同じところを殴って痛みを蓄積させた。
「ごめんって。もうやめてくれって」
憐れな男だ。妻に一切強気に出られない夫なんて男らしさが微塵もない。もっと真正面から主張してほしい。彼は妻の主張を全て受け入れることが最善だと勘違いしているようだ。
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