シャレコウベダケに、人の肉団子を食わす

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 由樹はしばらくに木に寄りかかって休んでいた。周囲から何も音が聞こえて来ないことに気付いた。静謐な空間で一人きりでいるが、夜鷹の大きな黒い翼に覆われているかのようだった。  ゆっくり息を吸い込んでから、そっと吐いた。誰の話し声も衣服が擦れる音も何も聞こえない。由樹は自分のいる状況を冷静に見てみた。  周囲に誰もいなくなっていた。そんな環境にいれるのは何日ぶりだろうか。もう日にちを数えることをやめていたので、成子に捕らえられてから何日経ったか分からない。  これはチャンスではないかと気づいた。どうやら、逃げ出した時に思ったよりも遠くにまで来ていたみたいだ。成子は彩花や隆広の顔を久々に思い出す。家に帰るという本来の目標を思い出した。  辺りを見渡して警戒し、斜面を下り始めた。初めの一歩を踏み出す時、枯れ枝を踏んでパキリという音が響いた。心臓が一瞬止まったかと思えるほど緊張を覚えた。  もう一度、誰かがこちらに近付いていないことを確認してから再び歩き始めた。一歩ずつ慎重になって歩く。誰も来ないだろうことを確信すると早歩きで下り始めた。  整備された道に出たので、山道に沿って下って行くことにした。左右には先程ヘッドライトで照らし出した種類の木々が生え並び、おどろおどろしい夜を演出している。  魔境から逃げ出している。彩花と隆広の顔を思い浮かべ、今帰るよ、と心の中で呟く。逃げ出すまで彩花と隆広に会う日を糧に、残虐な日々に耐えていた。二人に会うから耐えろ、と自分に言い聞かせていた。  二人には感謝しかなかった。明美にとってはそういう存在がいなかったのだろう。だからあそこまで成子にベッタリになったのだろう。由樹は明美への嫌悪感を高めていた。一方で、あんなに嫌いだった隆広が恋しくて仕方がない。早く会いたい。
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