シャレコウベダケ、いつまでも傍にいるよ

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シャレコウベダケ、いつまでも傍にいるよ

 何分歩いたか分からないが、左手に乾いた畑が並び、右手に瓦屋根の住居が立ち並ぶ通りに出た。この道沿いに成子のアパートがある。初めて成子のアパートへ向かった時にこの道を通った記憶を思い出す。  その時、右手側が畑になり左手側が住宅になるように歩いた記憶がある。ならば今向いている方向に進んでいれば、成子のアパートとは逆方向に進んでいるのではないか。ひたすら歩いていれば、いつか大きな通りに出くわすはずだ。  成子も渋谷にやって来られるほどの場所に住んでいる。ここは一都三県内に違いない。  由樹の予想は当たった。ひたすら歩いていると、秩父駅に到着した。駅前のバスロータリーにタクシーが三台停まっていた。緊急なのでタクシーに乗り込んだ。所持金など持っていない。自宅に戻って金を支払えば良い。今は一刻も早く、成子の住居から離れることが大事だった。  先頭に停まっていた一台の窓をノックした。ドアが開かれた。 「すみません、窓を開けて走ってもらえますか」  と、乗車する前に運転手のオジサンに外から言っておいた。自分の体が汚いことを自覚しているため、運転手に迷惑をかけたくなかった。 「はい、分かりました」  運転手は振り返って由樹の状態を見た。一瞬驚いた表情をしたが、何か察したらしい。DV夫から逃げ出した人妻とでも思ったのか、面倒なことに巻き込まれたくないためか何も聞いて来なかった。  自宅の最寄り駅を行く先にした。 「結構かかりますが」 「はい、大丈夫です」  戻ってから隆広に支払ってもらうように言おうと決めた。  走行中、運転手は無口だった。由樹は窓の外から吹いて来る風に当たりながら、後部座席で眠りに就いた。昨日までまともに眠れなかった。成子の部屋に来てから、最長でも四時間しか眠らせてくれなかった。  成子と男三人が交代で見回りをして、四人の女のうち三人は必ず眠らせてくれなかった。死ぬ前の清江は毎日起きていたようだった。  明美もほぼ寝ていなかったようだった。由樹とアンジェラは、一日おきに寝ていた。由樹は成子のベッドで眠ることも多かった。 「着きましたよ」  運転手のオジサンの声で目を覚ました。外は相変わらず真っ暗だが、外灯や自動販売機の明かりがアスファルトを照らしていた。運賃は二万円かからないくらいだった。 「すみません、自宅からお金を持って来るので少々待ってもらって良いですか」  馴染みのアパートに近付いた時、脳内でサライが流れた。今までよく耐えた、と自分を褒めた。だが、今住んでいるアパートもすぐに引っ越さなければならない。なぜか成子にバレていたからだ。  柴崎という表札のある扉の前に立ってインターフォンを押した。外廊下の明かりには小さい虫が幾匹も集っていた。
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