シャレコウベダケ、いつまでも傍にいるよ

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「はい」  隆広の声が聞こえた。彼はまだ起きていたようだ。隆広の声を聞いた瞬間に涙が噴き出した。途中で涙声になった。 「由樹です。開けて下さい。お願いします」  泣きじゃくりながらインターフォンのマイクに向かって喋った。え、という夫の声が聞こえて来た。すぐにアルミのドアが開かれた。隙間から隆広が覗いていた。 「由樹」  隆広は由樹が戻って来たことと泣いていることに驚いているようだ。どんな時でも強気で泣かなかった自分の妻が泣いている。由樹はその場で崩れ落ちた。 「ごめん。隆広さん。本当にごめんなさい」 「とりあえず入って。そんなところで泣き崩れないでよ。色々話も聞かないとダメだろうし」  久々に自宅の上がり框を跨いだ。何日ぶりだろうか。日にちを数えていなかったので、当然分からない。 「どうしたんだよ、その格好」  自分の格好を初めてしっかり確認できた。服はボロボロだった。自宅の明るい照明に照らされて自分の体を眺めることができた。白のTシャツはすっかり黄色くなっていた。ジーンズは茶色い血が乾いたシミで迷彩柄になっていた。由樹の自慢だった白い肌が黄色くくすんでいた。今まで暗い成子の部屋にいたため、ここまで汚れていると気付かなかった。 「とりあえず、お風呂入って来て良いよ」 「タクシーのお金払わないと」 「俺が払ってくるよ」  察してくれる隆広に甘えて久しぶりに風呂に入った。浴槽に湯を張って清江を窒息死させた記憶が蘇る。清江と旦那の話は、由樹と隆広の関係にも無関係とは言えないような話だった。彼女の死直前の言葉は戒めとして記憶に刻んでおくことに決めた。  湯船に浸かっていると、外から彩花の声が聞こえた。湯船の中に座っていたが腰が浮いた。  久々の再会になる。幼気な彩花の声を聞いて自分が母親であることを再認識した。成子なんかに負けない。母親として家族を守らなければいけない。湯船の中で成子に決して屈服しないことを再度決意した。  頭と体をよく洗った。久々に頭を洗ったのでシャンプーが泡立たなかった。四回も頭を洗ってようやく泡立った。彩花に会う前に体を綺麗にしておかなければいけない。思いっきり抱き着きたかった。  浴室の鏡で自身の体を詳察した。それほど傷は残っていなかった。清江の体は殴打と通電のせいで青黒く変色していたので、やはり自分はマシな扱いを受けていたようだ。  清江の全身の皮膚は。痣が大量にできてニシキヘビの鱗みたいな肌になっていた。由樹の体は黄色くくすんでいたが滑らかで、清江のように醜くなってはいなかった。  安心した。彩花に見せる訳ではないが、成子の部屋にいた証拠になるものを残しておきたくなかった。  風呂から出て居間に向かった。彩花はソファに座っていた。
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