由樹と旦那デスノート

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 投稿を見ていたら、その時のイライラを思い出したので忘れるためにスマホを手放した。テーブルの上にある置き時計を見た。時刻は夕方の五時十二分だった。彩花を迎えに行く時間になっていた。寛いでいて時間が経過していると気付かなかった。  部屋着からブルージーンズと白Tシャツに着替えてから日焼け止めだけ塗って、自宅のアパートから保育園に徒歩で向かった。帰りに商店街で夕食の材料を買うために、財布の中に一万円を入れて出た。  アパートを出ると目の前に坂道があり、下って行くと商店街に出る。商店街を右に曲がれば保育園に向かう道に繋がる。左に曲がれば最寄り駅に七分ほどで着ける。  商店街の中を進んでいると、ココカラファインというドラッグストアが見える。その店の角を曲がる。住宅が並ぶ細い道を歩いていると左手に保育園の園庭が見える。  園庭の中を歩いて校舎に入ると、友達と楽しそうに話している彩花の姿を見付けた。先生が彩花を連れて来てくれた。彩花は先生や友達に向かって、じゃあね、と言い大きく手を振っていた。  何て穏やかな日常なのだろう、と由樹も気持ち良くなる。娘を見ていると自分までも若返った気になる。今年で二十九歳になるが、何だか大学生の頃に戻ったような清々しさを感じる。 「今日はどんなことしたの」  保育園から出て家路に着いて尋ねた。いつも今日一日の出来事を聞くように習慣付けていた。 「今日はね、秋のお遊戯会で踊る曲を踊ったの」  発表曲の一節を歌いながら娘は由樹と手を繋いで歩いている。こんな日々が続けば良い、と心から思う。隆広には不満はあるものの、他人と比較してみて自分は幸福な方だと実感できる。 「今日は夜、何食べたい?」 「ハンバーグがいい」  彩花は溌剌とした声で答えてくれる。隆広と出会った当初は、結婚なんて毛頭考えていなかったので、こんなに幸せな生活が手に入るなんて考えてもいなかった。なぜなら彼とは十一歳も年齢が離れており、彼はミュージシャンになるという夢を追っている未成熟な年上男だったからだ。
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