白い悪魔の触手、生活を腐蝕する

2/5
前へ
/164ページ
次へ
   ※ 由樹  帰って来た翌日、隆広に全てを伝えた。旦那デスノートに書き込んでいた事実を聞いて愉快な顔はしていなかったが、最後まで聞いてくれた。だが、そんな書き込みのことなど、浩司と清江と清江の旦那殺しのことを聞いた瞬間に忘れ去っていたようだ。  彼は考え込んでいた。由樹は昨日の和歌山県のニュースの話もして、単なる殺人事件ではない可能性も示唆した。 「取り敢えず、ここにいることは危険だ。由樹はどこか別のところに寝泊まりするようにしよう。彩花には何も伝えないように。でも、また長期間顔を見せないと悲しむからな。朝の六時頃に一旦戻って来て、彩花を保育園に送ることだけはしても大丈夫だと思う。それ以外は僕が何とかするよ」  隆広の提案に乗った。ありがとう、と何度も感謝の言葉を述べた。隆広のおかげで警察に自首することは一旦なしとなった。明日から由樹はカプセルホテルで寝泊まりする生活になった。その間に引っ越しをしようと決めた。部屋探しも隆広が行ってくれるようだ。何て頼もしい夫なのか。今まで隆広を軽蔑していた自分を恥じていた。  壁の薄い狭苦しい個室にあるベッドに横たわった。カプセルホテルの利用は初めての経験だった。成子への恐怖から、なるべく個室から出たくなかった。だが彩花に心配をかけたくなかった。自宅に朝早く向かって彼女が起きる時には朝食を作る生活を送った。娘を保育園に預けてから、カプセルホテルに帰って身を隠す。隆広の提案通りの行動をしている。  隆広からは仕事が終わるタイミングで一日一回の電話での連絡が来る。スマホも盗られていたので、新しく購入してくれた。 「大丈夫か、成子さん来たりしてないか」 「うん、大丈夫」 「俺もなるべく早く引っ越しの準備を進めるからさ。もう少しの辛抱だ」 「彩花には引っ越すこと教えたの」 「うん、かなり駄々をこねられたよ。友達と離れ離れになっちゃうから仕方ないことだけどさ」  彩花には本当に申し訳なかった。成子のことで娘を振り回してしまうことには納得いかないが仕方がない。成子は危険人物なのだ。 「そっか、そうだよね。ごめんね」  ベッドに寝転がった状態で隆広と電話した。自分はここで寝ているだけで隆広が引っ越しの全てをやってくれている現状に引け目を感じていた。早くこんな生活を終わらせたい。何の憂慮もなく三人で暮らしたい。 「由樹が気にすることじゃないよ」 「三人で暮らせるようになったら、家族でバーベキューとか行こうね。冬にはスキーとか行ってさ、春はお花見してお弁当食べたりとかね」 「そうだね。そろそろ駅に着くから切るね」 「うん、ありがと。じゃあね」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加